ブロードウェイミュージカルとは? 歴史から最近のトレンドまでまるわかり!

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華やかな舞台、圧倒的なパフォーマンス、そして心を揺さぶる音楽。ブロードウェイミュージカルは世界中の観客を魅了し続けています。

一方で、よく耳にするものの、実際のブロードウェイのイメージがつかなかったり、どれほどの歴史があるのかを知らなかったりする方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、ブロードウェイミュージカルについての定義や歴史、最近のトレンドまで一挙に解説していきます!

そもそもブロードウェイミュージカルとは

「ブロードウェイミュージカル」とは、ニューヨークのブロードウェイ地区にある劇場で上演されたミュージカル作品のことを指します。その中には、大きく2つのタイプがあります。

① ブロードウェイで制作・初演された作品(例:『ウエスト・サイド・ストーリー』)

② 他国やオフ・ブロードウェイなどで制作された後、ブロードウェイで上演された作品(例:フランスで生まれた『レ・ミゼラブル』)

これらの作品は日本でも上演されることがあり、主に以下のような形態に分けられます。

来日版:海外のキャスト・スタッフが来日し、本場の演出のまま公演を行う。

日本キャスト版:海外の脚本を基に、日本のキャストが出演し、日本の観客に向けて演出を一部アレンジする。

劇場の規模によって呼び方が変わる!

ブロードウェイミュージカルは、上演される劇場の客席数によって分類されています。

劇場の座席数が500以上の作品をオン・ブロードウェイ、100〜499席の小さな劇場で上演される作品をオフ・ブロードウェイといいます。

一般的に「ブロードウェイミュージカル」と呼ばれる作品は、オン・ブロードウェイのことを指します。オフ・ブロードウェイは低予算で実験的な作品が作られる傾向があり、チケットが比較的リーズナブルなのも特徴です。

オフ・ブロードウェイで制作された作品が人気になり、オン・ブロードウェイでも大ヒットを収めた作品もあります。後述する『レント』や『ハミルトン』も、オフ・ブロードウェイで誕生し、オン・ブロードウェイでも人気を博した代表的な作品です。

一方で、オフ・ブロードウェイならではの魅力を活かし、長く愛され続けた作品もあります。その代表例が、『ファンタスティックス』です。42年間にわたりオフ・ブロードウェイで上演され続け、公演回数は17,000回以上にのぼります。これはアメリカ演劇史上最も長く公演された作品であり、オフ・ブロードウェイの独自の規模感や演劇的な魅力を活かした成功例といえるでしょう。

ブロードウェイの歴史

はじまりは2つの異なるエンターテインメントから

ブロードウェイミュージカルの元になったのは、20世紀冒頭に大きな盛り上がりをみせた「オペレッタ」「レヴュー」

「オペレッタ」は、小さなオペラを意味しており、上演時間も短く、セリフと歌の両方があるのが特徴。16世紀のイタリアで、王侯貴族の娯楽として誕生した「オペラ」が元になっています。ヨーロッパで誕生し、発展を遂げたオペレッタは19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカにやってきます。

「レヴュー」とは、歌やダンス、手品など、さまざまな要素を組み合わせたバラエティショー。ストーリー性のない先進的なエンターテインメントとして、アメリカで人気を集めました。これらを楽しむための場所として、当時ブロードウェイに劇場が次々に誕生。現在の劇場街形成のきっかけとなります。

ヨーロッパの歴史の中で育まれた「オペレッタ」と、アメリカで流行した「レヴュー」の文化が融合し、「ミュージカル」という新しいエンターテインメントが生まれたのです。

アメリカンオペレッタ
引用元:http://operetta-research-center.org/category/history/us-operetta/

レヴュー
引用元:https://www.britannica.com/art/vaudeville

現代ミュージカルのルーツ ーミュージカル『ショー・ボート』ー

1927年、ブロードウェイに主要な劇場が揃い始めた時期に、本格的なストーリー性のあるミュージカル作品『ショー・ボート』が誕生しました。

それまでのミュージカルは、単調なハッピーエンドの物語が主流でしたが、『ショー・ボート』は人種問題をはじめ、結婚や離婚などの家庭問題、アルコール中毒などの社会問題に触れ、従来の軽快な物語から大きな変化を遂げました。ショーとしての娯楽性を備えつつ、社会性を持たせたストーリーで、当時としては画期的なものでした。

この作品をきっかけに、ミュージカルはより深いテーマや複雑な物語を扱うようになり、その可能性は大きく広がっていきます。

『ショー・ボート』
引用元:https://en.wikipedia.org/wiki/Show_Boat

ブロードウェイミュージカル黄金時代

第二次世界大戦後は、ミュージカル専門の作曲家リチャード・ロジャースと作詞家オスカー・ハマースタイン2世が大活躍し、ブロードウェイミュージカルは黄金時代を迎えます。

2人がタッグを組んだ作品には、『オクラホマ!』、『王様と私』、『サウンド・オブ・ミュージック』などがあります。これらの作品は、斬新なストーリーと音楽性で高く評価され、ミュージカルの新たな地平を切り開きました。

『オクラホマ!』
引用元:https://rodgersandhammerstein.com/oklahoma-its-not-just-what-they-did-its-what-they-didnt-do-oklahoma-and-musical-narrative/

また、この時期には『ウエスト・サイド・ストーリー』も誕生しました。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を現代のニューヨークに置き換えたこの作品は、若手制作陣によって制作されました。斬新な音楽とダンス、そして社会問題を取り上げたストーリーで、ミュージカルの可能性をさらに広げることとなりました。

『ウエスト・サイド・ストーリー』
引用元:https://www.westsidestory.com/1957-broadway

ブロードウェイミュージカルの低迷とロンドンミュージカルの台頭

1970年代に入ると、ブロードウェイミュージカルは一時的に低迷していきます。これは、黄金時代を築いた巨匠たちの活動が減少したこと、テレビの普及、そして既存の文化に反発するカルチャーが流行し、若い客層がロック音楽に流れたこと、そしてブロードウェイ周辺の治安悪化など、様々な要因が絡み合った結果です。

一方、その頃、世界のミュージカルエンターテインメントの中心は、ロンドンへと移りつつありました。 ロンドンミュージカルは、明確なコンセプトや、ドラマティックなストーリー展開、大掛かりな舞台装置が特徴です。

20世紀に実在した、アルゼンチンの大統領夫人兼副大統領の生涯を描いた『エヴィータ』という作品を皮切りに、世界四大ミュージカルと呼ばれる『キャッツ』『レ・ミゼラブル』『オペラ座の怪人』『ミス・サイゴン』が続々と制作されました。

なお、世界四大ミュージカルは、初心者の方にもおすすめ。
解説記事もぜひご覧ください!

magazine.recri.jp

ディズニーと二人三脚で、ブロードウェイが復活

1992年までのブロードウェイは、殺人事件だけで年間2000件、強盗・強姦など他の重犯罪も含めると40万件にものぼる犯罪多発都市

この状況を打開するため、ルドルフ・ジュリアーニ氏がニューヨーク市長に就任し、治安回復を最優先課題としました。彼はブロードウェイ地区の劇場を改修し、新たな劇場として再生する計画を打ち出しました。その一環として、ウォルト・ディズニー社に対し、劇場を低価格で貸し出す代わりに長期公演を行うよう依頼したのです。

ディズニーとの共同取組の第一弾として上演されたのが『美女と野獣』でした。当時業界のプロたちからは低評でしたが、ブロードウェイの観客には、はじめから受け入れられ、大人気公演となりました。

『美女と野獣』
引用元:https://playbill.com/article/look-back-at-the-original-broadway-cast-of-beauty-and-the-beast

その後、第二弾として、ブロードウェイ史上最高と言われるほどの制作費をかけて『ライオンキング』が誕生。ニューヨーク・タイムズをはじめ、業界のプロたちからも大絶賛され、ミュージカルにおいて最も権威があるとされるトニー賞では、6部門で賞を獲得しました。

『ライオンキング』
引用元:https://broadwaydirect.com/the-lion-king-celebrates-15-groundbreaking-years-on-broadway/

このように、ディズニーの力を借りながら、『レント』をはじめとするディズニー以外の作品もヒットを記録するなどし、ブロードウェイミュージカルは復活を遂げます

『レント』

引用元:https://playbill.com/article/celebrate-25-years-of-jonathan-larsons-rent-on-broadway

最近のブロードウェイ事情

人気作品ランキングTOP3

2024年11月の感謝祭シーズン(アメリカを代表する祝日の前後)は、ブロードウェイ史上最高の興行収入と観客動員数を記録したそう。*1

現在、ブロードウェイで人気のミュージカルTOP3をご紹介します!(2024年11月時点)

第1位『ウィキッド』

『オズの魔法使い』の前日譚として、エルファバ(後の西の悪い魔女)とグリンダ(善い魔女)の友情と葛藤を描いた作品です。
2003年にブロードウェイで初演後、全世界で6500万人以上動員しているミュージカルですが、昨年2024年にアメリカで映画化されたこともあり、今大注目の作品です。

『ウィキッド』
引用元:https://wickedthemusical.com

第2位『ライオンキング』

ディズニーの名作アニメ『ライオン・キング』を舞台化したミュージカル。
アフリカの大地を思わせるビジュアルと音楽で、子どもからお年寄りまで幅広い層に人気です。

『ライオンキング』
引用元:https://broadwaydirect.com/the-lion-king-celebrates-15-groundbreaking-years-on-broadway/

第3位『ハミルトン』

アメリカ建国の父、アレクサンダー・ハミルトンの生涯を、ヒップホップやR&B、ジャズなどの現代音楽とともに描いた作品。
音楽やパフォーマンスの斬新さに加え、アメリカの多文化性を象徴するキャスティングも見どころです。

『ハミルトン』
引用元:https://www.newyorktheatreguide.com/theatre-news/news/everything-you-need-to-know-about-hamilton-on-broadway

映画原作のミュージカル

最近のブロードウェイ作品は、人気映画をミュージカル化することが増えています。
映画からミュージカル化する作品といえば、ディズニー作品をイメージすることが多いと思いますが、それだけではありません。

『スクール・オブ・ロック』

原作は2003年に公開されたコメディー映画。音楽は、『キャッツ』や『オペラ座の怪人』などの大ヒットミュージカルを世に送り出してきたアンドリュー・ロイド=ウェバーが作曲。バンドの生演奏がライブを観ているような感覚になる大興奮間違いなしの作品です。

『スクール・オブ・ロック』
引用元:https://www.broadway.com/shows/school-rock-musical/

『ビリー・エリオット』

2000年にイギリスで公開された青春映画が原作。バレエダンサーを目指す少年のストーリー。
ミュージカルの音楽を手がけたのは、ミュージカル『ライオンキング』などで有名なエルトン・ジョン。映画を見て感銘を受けたエルトン・ジョンが自らオリジナル楽曲を提供することを申し出たことをきっかけにロンドンで舞台化されました。その後ブロードウェイに進出し、複数の賞を受賞しています。

『ビリー・エリオット』
引用元: https://www.newcitystage.com/2010/04/13/review-billy-elliot%E2%80%94the-musicalbroadway-in-chicago/

イマーシブシアター

イマーシブ(IMMERSIVE=没入)シアターとは、“体験型演劇”の総称。2000年代にロンドンで誕生して以降、ニューヨークを中心に注目を集めています。
ここでは、話題化のきっかけとなった『スリープ・ノー・モア』という作品をご紹介します。

『スリープ・ノー・モア』

シェイクスピアの『マクベス』を原作としたミュージカル『スリープ・ノー・モア』は、ロンドンで制作され、2011年にオフ・ブロードウェイで上演され大ヒットしました。
その後、マンハッタンの廃墟ホテルが、この作品を上演するために改装されました。セリフがないため、役者の表情やダンスから物語を解釈して楽しみます。座席はなく、建物全てが舞台セットとなるため、自分のすぐ目の前で役者を見ることができます。

『スリープ・ノー・モア』
引用元:https://mckittrickhotel.com/

まとめ

ブロードウェイミュージカルの概要から、その歴史や最新のトレンドまで幅広く解説してきました。 歴史を知ることで、新たな視点で名作ミュージカルを楽しむことができます。

また、ブロードウェイの最新作が徐々に日本でも上演されるようになり、その熱気を身近に感じられる機会が増えています。本場さながらの盛り上がりを日本で体験できると思うと、胸が高まりますね。

この記事が、ブロードウェイミュージカルに興味を持つきっかけとなれば幸いです。

参考文献

*1:The Hollywood Reporter Japan,ブロードウェイ、感謝祭史上最大の興行収入:『ウィキッド』がけん引,https://hollywoodreporter.jp/news/79950/,2025/01/15