「翻訳は文化の橋渡し」自分らしさを肯定してくれるミュージカル『SIX』の魅力を語る(『SIX』翻訳・訳詞 土器屋利行さん)

2025年1月〜2月に上演されるミュージカル『SIX』の翻訳・訳詞を手掛けた土器屋利行さんに、翻訳・訳詞のお仕事やミュージカル『SIX』の注目ポイントをお話しいただきました!


▼5分でわかる動画はこちら

youtu.be

ーー自己紹介をお願いします。

こんにちは。『SIX』 の翻訳・訳詞を担当している土器屋利行と申します。僕はダンサーとして仕事を始めたのちミュージカルの分野に活動を広げていき、ミュージカルへの出演と並行してミュージカルの翻訳・訳詞を作る仕事も始めました。同時に、来日スタッフなどの通訳をするようになり、現在も舞台に関わる仕事を続けています。

言語を変換するだけではなく、文化を伝える仕事

ーー翻訳のお仕事を始めるきっかけは何だったのでしょうか?

僕は10 代の頃イギリスに住んでいて、ロンドン大学インペリアルカレッジを卒業しました。

卒業後に日本に帰ってきてテーマパークでダンサーをしていたときに、リハーサル通訳の仕事をいただいたことがあったんです。その頃から英語を通じてエンターテイメントに関わる仕事が増えていきました。

その後ミュージカルへの出演が増えていった時期に、自分の好きなミュージカル曲の英語の歌詞を日本語の歌詞に訳してみたり、日本語の歌詞をつけてほしいという知り合いからのお願いに応えたりし始めました。

やがて色々なご縁からミュージカルをひと作品丸ごと翻訳してみないかという話をいただけるようになって、これまでに十数本のミュージカルやストレートプレイ※を翻訳しています。

※ストレートプレイ:歌唱を含まない、セリフや芝居によって進行する演劇形式

ーー翻訳をされる時のお仕事の流れを教えてください。

まずは、「ブロードウェイミュージカルを日本に持ってきて上演したい」とか、「昔上演されたことがあるミュージカルを自分たちで焼き直してやってみたい」と思った制作会社などが企画を立てます。

そして、それらの会社が翻訳をお願いしたい人に依頼をするという流れになります。

どのくらいの期間が必要になるかはピンキリで、僕の場合はだいたい1ヶ月くらい時間を取っておけばなんとか形にはなるかな、という感じです。

ーー翻訳や訳詞をされる方によって脚本の違いや個性はありますか?

それはもちろんあると思います。

特に日本語は英語と違って、言葉から連想するイメージの幅が人によって大きく異なる言語なんですね。「察する」余地が多いと言ったらわかりやすいのかな。

一方で、英語や他のヨーロッパの言語は、単語や表現に対するイメージの幅が比較的狭いんです。だから、系統の違う言語を日本語に訳すというのは、翻訳者が今までどういう経験をしてきたか、どういう言葉を耳に入れてきたかが如実に影響するような作業だと思います。

そこに、音楽の要素が含まれてくるからミュージカルは特に難しくて。楽曲の構成などの音楽の知識も必要ですし、日本語が持つメロディーを汲み取る必要もあります。

よく聞いてみると日本語には日本語特有のメロディーがあるので、これが楽曲のメロディーとどう組み合わさるかを考えなくてはいけません。日本語のメロディーを気にしながらリズムも気にするところまで考えると、ものすごく難しい作業になります。

また、言葉を選ばずに言うと、僕は“どこを妥協できるか”を考えることも大事なことだと思います。例えば「英語ではこういうセリフだけど、文章の長さを考慮してここでは直訳は避け、別のところで同じ意味を表現しよう」という言葉を取捨選択するセンスも重要です。

ーーやはり、世界中の文化や価値観に精通している必要があるということでしょうか?

そのほうが有利だと思います。翻訳は言葉を一つの言葉からもう一つの言葉に置き換えるというだけのものじゃなくて、その文化を別の文化圏に伝える側面も持っていると思うんです。だから海外の動画や映画などもよく見ます。字幕は作成する人によって表現が変わってくるので、色々な表現の英語と日本語を両方インプットするように意識していますね。いい表現があればそれをこっそり盗ませてもらいます。

それにプラスして、僕は昭和の歌謡曲を昔から大事にしています。「察する」文化の日本語の美しさを学ぶことができるとても良い教科書だと思っています。 あとはラップの世界にも通ずるものがあって、日本語で書かれていても上手くリズムが作られたラップを聴いたりすると勉強になることが多いですね。

世界中を熱狂させるミュージカル『SIX』の魅力

ーー『SIX』はどのようなミュージカルですか?

16世紀イギリスのヘンリー8世という王様にはかつて6人もの妻がいたのですが、彼女たちが現代に蘇り、それぞれがヘンリーと結婚していた時についてライブ形式で歌っていきます。そして6人の中で誰が一番辛く酷い目にあったかを競い合って、一番悲惨な目にあった人がバンドのリーダーになれる、というストーリーです。

ーー『SIX』の魅力や「ここを見てほしい!」というポイントを教えてください。

『SIX』は、ミュージカル作品としてはとても珍しい形式をしています。

6人の元王妃によるボーカルとその侍女たち4人のバンド演奏によるライブ形式で、一人ずつ曲に乗せて自分の境遇を歌い上げていくことで物語が進んでいきます。

ひとりの王様と6人もの女性たちが順繰りに結婚するなんて現代ではありえない話ですが、この作品のいちばんの魅力は、時代が違う今でもなぜか登場人物を身近に感じてしまう点です。

原作がポップソングの形態をしていても身近さを感じられるような英語で書かれているから、同様に身近さを感じられるような日本語の歌詞にするというのが今回の僕の仕事だと思いました。 原作を手がけたトビーさん、ルーシーさんと話して、登場人物の人間らしさを大切にして欲しいという彼らの要望を再確認できた時には、「よし!」と思いました。

ーー『SIX』の翻訳で苦戦したところがあれば教えてください。

一般的なミュージカルの上演時間は2 時間半〜3時間ぐらいですが、『SIX』の上演時間は 80 分ぐらい。でも、普通のミュージカルよりも翻訳に時間がかかっています。本当にやりがいのある作品でしたね。

こんなに複雑で、色々考えなきゃいけなくて、歴史的事実も正確に表現しなきゃいけない。でも人間的なところも表現しなきゃいけない。翻訳に言葉の面白さをどう反映するかという難しさもありました。

歌詞やセリフで言葉遊びもいっぱいあります。

▼原作の「1,2,3…」が隠された歌詞が、日本語に置き換えて表現されている一節

▼Youtube|ミュージカル『SIX』 日本キャスト版歌唱動画 EX-WIVES and SIX(該当箇所:03:30〜4:00)

www.youtube.com

それぞれの役には、ビヨンセ、アデル、アリアナ・グランデなどの現代ポップスターのイメージが当てはめられていて、それに紐付いた単語が原作のセリフや歌詞に出てきたりするんです。

例えば、「サバイバー」という単語が出てくる歌詞があるんですが、そのまま日本語に訳すと「生存した人、生き残った人」という意味になります。でも、この場合は「未亡人」という意味で使われているんですね。

なぜあえてその単語が使われたかというと、ビヨンセがメンバーだった「デスティニーズ・チャイルド」のアルバム「サバイバー」へのオマージュなんです。

これは日本語版で表現することはどうやっても無理だろう、ごめんなさいと思いましたね。(笑)

ーー最後に、『SIX』を観てくださるお客様にメッセージをお願いします!

「何があったとしてもあなたはあなたらしく生きれば良い」これがこの作品のメッセージの一つだと思います。それは普遍的なものであり、世界共通のものであり、観てくれる観客の皆さん一人ひとりに向けられたものです。

僕が翻訳・訳詞を担当した日本キャスト版のキャストたちであっても、僕が字幕でサポートしている来日版のキャストであっても、6人のどこかに共感するものを見つけることができると思います。

だからこそ今、この『SIX』という作品は世界中で盛り上がっているミュージカルなんだと強く感じました。

プロフィール

土器屋利行(どきや としゆき)

1976年、熊本県生まれ。ロンドン大学インペリアルカレッジ卒業後、ロンドン・スクール・オブ・ミュージカルシアターにて演劇を学ぶ。帰国後は『マイ・フェア・レディ』、『ミス・サイゴン』、『ラ・カージュ・オ・フォール』、『プリシラ』などに出演。現在はミュージカルやストレートプレイの翻訳・訳詞、通訳、舞台制作などを中心に活動する。近年手がけた主な舞台に、『Be More Chill』(翻訳・訳詞)、ブロードウェイミュージカル『MEAN GIRLS』(共同翻訳)、『レイディマクベス』(翻訳)、『東京ローズ』(訳詞)、『イザボー』(プロデューサー)、『ATTACK on TITAN: The Musical』(NY公演)と『「進撃の巨人」-the Musical-』日本凱旋公演の英語字幕など。

日時 【来日版】
2025/1/8(水)~1/26(日)
【日本キャスト版】
〈東京公演〉:2025/1/31(金)~2/21(金)
〈愛知公演〉:2025/2/28(金)~3/2(日)
〈大阪公演〉:2025/3/7(金)~3/16(日)
場所 【来日版・日本キャスト版 】
〈東京公演〉EXシアター六本木
【日本キャスト版】
〈愛知公演〉:御園座
〈大阪公演〉:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
料金 【来日版】
指定席:14,000円 (全席指定・税込)
VIP席:18,000円(全席指定・税込)※1階前方4列以内センターブロック・非売品グッズ付
SIX席:6,000円(全席指定・税込)※各回6枚限定・当日引換券

【日本キャスト版】
〈東京公演〉
指定席:14,000円(全席指定・税込)
VIP席:18,000円(全席指定・税込)※1階前方4列以内センターブロック・非売品グッズ付
SIX席:6,000円(全席指定・税込) ※各回6枚限定・当日引換券
〈愛知公演〉
指定席:14,000円(全席指定・税込)
〈大阪公演〉
指定席:14,000円(全席指定・税込)
Webサイト ミュージカル『SIX』来日版・日本キャスト版|梅田芸術劇場
公演に関するお問い合わせ 梅田芸術劇場[東京]
0570-077-039(10:00~18:00)