「空気が変わる瞬間を五感で味わう」恋の三角関係に宿る古典バレエの魅力(新国立劇場バレエ団『ライモンダ』出演:木村優里さん、渡邊峻郁さん)

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マリウス・プティパ最後の傑作といわれる古典バレエ『ライモンダ』。新国立劇場バレエ団では2004年の初演以来、度々上演を重ねてきた人気作です。今回、新国立劇場バレエ団のプリンシパル(トップダンサー)であり、本作に出演する木村優里さん、渡邊峻郁さんにインタビューを実施!「これをきっかけにバレエが好きになってほしい」というお二人が語るバレエの魅力とは?さらに、本作を楽しむためのポイントやお互いの印象までたっぷりお話を伺いました。

『ライモンダ』あらすじ

ベルギー王の家臣として十字軍の遠征に出ているジャン・ド・ブリエンヌと密かに婚約をしているライモンダは、再会を夢にみるほど彼の帰還を待ちわびている。サラセンの王アブデラクマンも、美しいライモンダを憎からず思っている。叔母である伯爵夫人の館で開かれた宴に招待されたアブデラクマンは宝石や数々のめずらしい踊りで彼女の気を引こうとするが、そこにジャン・ド・ブリエンヌが登場して、彼女をめぐり決闘となる。
(公式HPより:https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/raymonda/

清廉な騎士と野性的な王との三角関係

『ライモンダ』のストーリーについて教えていただけますか?

渡邊さん:この作品は、中世のフランスが舞台になっていて、伯爵令嬢のライモンダが主人公の物語です。ライモンダにはジャン・ド・ブリエンヌという婚約者がいて、彼女は十字軍の騎士として遠征に出ているジャンの帰りを待っています。ところが、ジャンの留守の間に、アブデラクマンという王様がやってきて、ライモンダに対して恋心を抱き熱烈にアプローチします。そこへジャンが帰還して、アブデラクマンとの決闘になり、最後にはジャンが勝利してライモンダと結ばれる、というストーリーです。

三角関係の恋愛物語をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。清廉で颯爽とした騎士のジャンと、野性的で独特な色気を持っている王のアブデラクマン。対照的な二人が揃って恋に落ちてしまうぐらい、ライモンダは魅力的で美しい女性なんです。

本作の見どころについても教えてください。

渡邊さん:僕はライモンダの婚約者ジャン・ド・ブリエンヌを演じます。特に見どころだと思っているのは、ライモンダの夢の中にジャンが登場してソロで踊るシーンです。素敵なシーンですが、彼女の描いている理想的なジャンを表現しないといけない難しさもあります。

木村さん:私が演じるライモンダ役は、ヴァリエーション*1が特に多いんです。私は3幕の豪華絢爛な宮殿でのヴァリエーションが好きで、音楽が止まって無音になる中で踊る瞬間や、手を叩く振付が特徴的です。振付自体はシンプルですが、だからこそ見せ方が難しく、品格を見せなくてはいけない踊りだと思います。ライモンダの情熱が徐々に高まっていく様子が表現されている音楽も、とても素敵です。それから、3幕ではキャラクターダンスも見どころです。

キャラクターダンスとはどういった踊りなのでしょうか?

渡邊さん:バレエのステップの中に、民族舞踊の要素を取り入れたものです。民族舞踊の特徴的な腕の動きやステップが組み合わさって一つの踊りになっています。クラシック・バレエの普通の踊り方とキャラクターダンスでは、明らかに手の動かし方や顔の付け方*2が異なるので、初めて観る方でもその違いが分かると思います。『ライモンダ』では、最後の結婚式の場面でマズルカというポーランドの踊りと、チャルダッシュというハンガリーの踊りが出てくるので注目してみてください。

五感で楽しめる空気が変わる瞬間

本作の楽しみ方のポイントを教えていただけますか?

木村さん:この作品は、古典バレエの様式美や、コール・ド・バレエ*3のシンメトリーの美しさ、踊りの構造に見応えがあります。主役が踊るパ・ド・ドゥ*4にもそれぞれにきちんとコーダ*5がついて、一曲ずつしっかりと盛り上がって次の踊りに繋がっていくところなど、純粋に古典バレエの魅力を楽しめる作品だと思います。ストーリーも複雑ではないですし、素晴らしい音楽と共に華やかなバレエを五感で楽しんでいただけると嬉しいです。

渡邊さん:先ほどお話したキャラクターダンスのように、様々なタイプのダンスが散りばめられているので、お気に入りのダンスを見つけるという楽しみ方もできると思います。例えば、僕が演じるジャンのソロとアブデラクマンのソロでは、同じ男性ソロでも全く踊り方や見せ方が違うのも面白いポイントです。

あと、この『ライモンダ』では、舞台美術や衣裳の魅力というのも外せません。特に最後の結婚式の場面で全員が同じ踊りをするシーンに入る時、音楽・セット・衣裳と全てが合わさって場の空気が変わる感じがします。曲調もそれまで盛り上がっていたのが一旦スッと静かになってから始まるんですよ。この空気が変わる瞬間がすごく好きです。

木村さん:確かにどの衣裳も素敵ですよね。色合いもすごく美しくて、例えば青色の衣裳もただの青ではなく、少しグラデーションになっているんです。背景の美術や舞台セットも本当に素敵で、全部が合わさった時に感動的な美しさがあって、まさに総合芸術です。

ライモンダの衣裳は全部で3着あって、私は特に1幕の衣裳がお気に入りです。白い衣裳なんですが、アームカバーを着けるのがバレエではなかなか珍しくて。髪飾りのデザインもすごく素敵です。ライモンダだけではなく、コール・ド・バレエを踊る皆さんのヘッドドレスもちょっと変わったデザインなので、ぜひ注目して観ていただきたいです。

チャレンジしていける環境

お二人の思う新国立劇場バレエ団の特徴はどんなところにありますか?

木村さん:古典バレエを大事にしながら、現代の作品のレパートリー*6も持っているので、ダンサーが幅広い作品を経験できるところが魅力だと思います。昨年ロンドンでの公演を経験して*7、バレエ団の雰囲気もより高まっていると強く感じています。

渡邊さん:新しい作品にチャレンジしていける環境が整っているのが特徴だと思います。昨年12月からは『くるみ割り人形』という古典作品を新しい解釈で作り直して上演しましたし、今年から始まる2026/2027シーズンもまた新作があります。それから、日本では新国立劇場バレエ団だけがレパートリーとしている『シンデレラ』のように、このカンパニーだからこそできる作品があるのも大きな魅力だと思います。

お二人のお互いの印象を教えていただけますか?

木村さん:渡邊さんは舞台上でとても印象に残るダンサーだと思います。色々な役を幅広くされていますが、どのような役でも自分のものにするために努力して、自分のやりたい表現に真摯に向き合っている印象です。バレエに対しても自分自身に対しても誠実に向き合っていると思いますし、他のダンサーに対する細かい気配りもできる方です。親しみを込めて、みんな「兄者(あにじゃ)」って呼んでいます(笑)

渡邊さん:僕の弟も新国立劇場バレエ団に所属していまして。弟が僕のことを「兄者」と呼ぶので周りの後輩も真似して呼びはじめたんです(笑)慕ってもらえているのは嬉しいですね。

木村さんは、役ごとのキャラクターを掴んだ上で、彼女らしいエッセンスを加える独創性があると思います。バレエのテクニックはもちろん、踊りの中にセリフが聞こえるように感じる表現力の高さが素晴らしいです。ストイックな方なので、追求して追求して、この段階まで来られたと思いますが、それを感じさせないくらい踊りの中に自然に落とし込めているのがすごいですね。

最後に、今回の公演を観に来てくださるお客様に一言ずつメッセージをお願いします!

渡邊さん:バレエをあまり観たことがない方も、この作品をきっかけにバレエが好きになって、たくさん観に来ていただけたら嬉しいです!あまり堅苦しく思わずに楽しんでいただけたらきっと良さが伝わると思います。

木村さん:ジャンとアブデラクマンという全くタイプの違う素敵な男性キャラクターが登場しますから、例えばどちらのほうが自分のタイプかな、とか気軽に楽しんでいただけたら嬉しいです。ぜひ非日常の世界に浸りに劇場へいらしてください

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プロフィール

木村 優里(きむら ゆり)

千葉県出身。泉敬子、泉敦子、牧阿佐美に師事。15年新国立劇場バレエ研修所を修了し新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。『くるみ割り人形』で主役デビューを果たし、『ドン・キホーテ』『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』『ジゼル』『シンデレラ』『竜宮 りゅうぐう』といった作品で次々と主役を踊る他、『ラ・バヤデール』ガムザッティ、マクミラン『マノン』レスコーの愛人、ウィールドン『不思議の国のアリス』アリスの母/ハートの女王などの主要な役を務める。17年舞踊批評家協会新人賞、20年中川鋭之助賞。19年ファースト・ソリスト、22年プリンシパルに昇格。

渡邊 峻郁(わたなべ たかふみ)

福島県出身。鈴木寿雄のもとバレエを始める。2006年モナコ・プリンセスグレース・アカデミーに留学し、マリカ・ベゾブラゾヴァらに師事。09年アカデミーを首席で卒業し、トゥールーズ・キャピトル・バレエに入団。『ジゼル』アルブレヒトなどの古典作品、バランシン、ロビンズ、キリアン、ドゥアト、サープなど数多くの振付家作品を踊るほか、C.ベラルビ振付の新作『美女と野獣』では主役に抜擢された。16年新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。『シンデレラ』で全幕主役デビューを果たす。その後『ジゼル』『くるみ割り人形』『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『不思議の国のアリス』『ロメオとジュリエット』などの主役を踊っている。17年ファースト・ソリスト、19年プリンシパルに昇格。

■取材:すずき もえ

公演情報

公演名 新国立劇場バレエ団『ライモンダ』
日程 2026年4月25日(土)~5月3日(日・祝)
会場 新国立劇場 オペラパレス
Webサイト https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/raymonda/
お問い合わせ 新国立劇場ボックスオフィス
03-5352-9999(10:00~18:00/休館日を除き年中無休)

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*1:主要な役が踊ることが多い、演目の中でも見せ場となるソロダンス

*2:動きに合わせて然るべき方向に顔を向けること

*3:大人数のダンサーによって踊られる群舞のこと

*4:男女ふたりの踊りのこと

*5:一曲のダンスの中で最も盛り上がるフィナーレの部分

*6:演じることのできる曲目や芸の種類

*7:2025年、新国立劇場バレエ団として初の海外主催公演となる『ジゼル』を英国ロイヤルオペラハウスで上演した