「身体と心全部を使って役を全うしたい」厄介だけど愛おしい半音ズレた人々の日常(KERA CROSS 第七弾『シャープさんフラットさん』出演:安達祐実さん)

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劇作家ケラリーノ・サンドロヴィッチの選りすぐりの戯曲を、才気溢れる演出家たちが異なる味わいで新たに創り上げる連続上演シリーズ・KERA CROSS。その第七弾となる『シャープさんフラットさん』はKERA自身の半自伝的戯曲です。今回、本作に出演する安達祐実さんにインタビューを実施!近年は舞台出演にも意欲的に取り組んでいるという彼女ですが、少し前まで「演劇は自分が足を踏み入れてよい世界ではない」と感じていたそう。そんな安達さんが本作で演じる正反対な二役について、そして舞台に立つようになって感じている演劇の魅力などたっぷりお話を伺いました。

『シャープさんフラットさん』あらすじ

バブル経済が崩壊へ向かい始める1990年代初頭。 笑いを作ることに人生を賭ける男・辻煙(つじけむり)はあるトラブルをきっかけにサナトリウムに逃げ込んだ。煙の恋人・美果や、サナトリウムで暮らす元芸人たち、煙の幻想に登場する父親らとのやり取りを通じて、悲劇を喜劇に変換して人生を過ごしてきた劇作家の生きざまが浮かび上がってくるーー。

心に嘘がないように演じる

今回の作品について、どのような印象を持たれていますか?

人間って滑稽で愛おしいなと思える作品だと思います。サナトリウム*1を舞台に、入所している人たちやその家族、施設の職員など色々なキャラクターが出てきて、ちょっと会話が噛み合っていなかったり勘違いしたりが原因で、様々なことが巻き起こるんです。

みんな自分が思っていることを曲げられなかったり厄介な部分があるんですが、そんな様子もなんだか可愛くてじんわりきます。素敵な役者さんたちがそれぞれに濃いキャラクターを演じるので、それだけでも面白くて見応えのある作品をお届けできるのではないかと思っています。ちょっと理解できないなと感じるキャラクターもいるかもしれませんが、自分自身との違いも含めて楽しんでいただけると嬉しいです。

安達さんは、主人公である辻煙の母親、そして、サナトリウムの入居者の一人である園田研々の妻・春奈の二役を演じるのですね。

そうですね。煙の母親については出番の多い役ではないので、短い時間でその人となりを伝えられるようにしたいです。自由奔放で、子どもがいても“女”を捨てられなかったり、モラルや常識からはかけ離れたひどい人に見えるかもしれないですが、彼女なりの人間らしい部分を見せられると役に深みが出てくるのではないかと思っています。

春奈は元芸人だった旦那さんのことが大好きで、その才能を一途に信じていて、年を重ねても心は純粋な少女みたいな人です。とても愛くるしい人なので、観ていて温かい気持ちになっていただけるキャラクターだと思います。辛い出来事も起こるのですが、そんな状況でも、彼女の愛の力や信じようとする力がとても尊いものに見えるといいなと思っています。

まったく違う二役かと思いますが、どのように演じていきたいと思いますか?

台本を読んでいて私自身が演じる役のことをとても愛おしく感じたので、その気持ちを表現できたらと思っています。(演出の)マギーさんとお話したときに「心に嘘がないようにしてほしい」とおっしゃっていたのですが、それは私もお芝居をする上で絶対に諦めたくないと思っているところなんです。やはり登場人物として気持ちに偽りないように、きちんと彼女たちの感情で自分の心を満たして、演じていきたいと思っています。

実は、今回のようなコメディ寄りの作品を舞台でやらせていただくのは初めてなんです。今までどちらかというとシリアスな雰囲気の作品が多くて。お客様の反応がどうなるんだろうとか、他のキャストの皆さんとどんな化学反応が起きるんだろうとか、私自身予想できない部分があるので、ドキドキもしますがとても楽しみです。

演劇から逃げる自分が恥ずかしくなった

長くお芝居の世界で活躍されている安達さんですが、初めて観た舞台の思い出などは覚えていますか?

初めて観た舞台!人生で初めてされた質問かもしれないです!(笑)でも、初観劇ってはっきり言えるものは覚えていないかも…。演劇を観るという体験をする前に舞台に立っていたと思うんですよね。

観劇経験としてはあまり多くないですが、最近は舞台に立たせてもらうことも増えて、知り合いの方が出演や演出をされている作品を観る機会も増えました。長い間映像のお仕事が中心だったこともあり、実を言うと、演劇の世界って私がそう簡単に足を踏み入れていいようなところではないという気持ちがずっとあったんです

そのように思われていたとは意外です!そんな演劇の世界に足を踏み入れるきっかけになったのは何だったのでしょうか?

あと何十年お芝居をしていく人生か分からないですが、俳優を名乗って生きるのに、演劇から逃げている自分がちょっと恥ずかしいと思うようになったんです。できる限りやってみて、でもあまり向いてなかったと気づくこともあると思うんですが、やってもいないのに遠ざけてしまうのはよくないと思って。

子どもの頃舞台に立たせてもらっていた時は、正直なところ、大人から「やりなさい」と言われたからやっていたんだと思うんです。自分の意志で、改めてちゃんと舞台に立とうと思い始めたのはここ5~6年くらいでまだまだ短いですが、今は楽しんでやらせていただいています。

今日演劇を初めて観る人が客席にいるかもしれない

演劇が新たなチャレンジになっているのですね。舞台に立つようになって感じている演劇の魅力はありますか?

まだまだ演劇を語れるほどではないのでおこがましいですが…。舞台は観る人がどこにフォーカスするかを決めて観られるのが面白いところではないかと思います。映像ではカメラアングルで切り取られて編集された部分しか見せないので、見えていない部分が実はすごく多いんです。でも演劇では舞台全体どこでも観られるので、演じる側としては常に全身でその役を演じていないといけないんです。緊張感はありますが、自分の身体全部を使って全うするのはとてもやりがいがあると思います。

舞台では、お客様の緊張もすごく伝わってくるんですよね。緊張感を持って集中して観てくれているのはとてもありがたいことですが、もっと楽な気持ちで観られるように、演じる側が心がけていきたいとも思います。「緊張しなくて大丈夫」と伝わるようにしたいですね。

度々舞台でご一緒している俳優の平原テツさんが「自分たちはいつも『今日演劇を初めて観る人が客席にいるかもしれない』と考えて、その人たちに演劇っていいなと思ってもらえるものを届けないといけない。それだけの責任感を持って舞台に立たないといけないんだ」ということをおっしゃっていて。たしかに、“演劇”のイメージって初めて観る作品によって決まるものですよね。こちらがどんな舞台をお見せできるか、何を伝えられるかが大切だと思います。

最後に本作を観劇するお客様に向けてメッセージをお願いします!

『シャープさんフラットさん』というタイトルだけに、半音くらい少しだけずれている人がたくさん出てくるんですが、彼らを見ていると、実は正しい音階を辿っている人のほうが少ないんじゃないかという気持ちになってくると思います。「自分はちょっとずれているのかもしれない」と思っている人が、この作品を観て、そんな自分のことも可笑しみをもって受け入れられるようになってくれたら嬉しいですね。たくさん笑えて、じわっと心が温かくなる場面もある作品をお届けしますので、難しく考えず楽しみに来ていただけたらと思います。

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プロフィール

スタイリスト:船橋翔大(DRAGONFRUIT)
ヘアメイク:mayumi shiraishi
衣裳クレジット:チェックブルゾン\16,500、セットアップパンツ\14,300、タイ付きブラウス\13,200 (3点ともエルチェレ)、ピアス\5,500(オイル/ジョワイユ)
問い合わせ:エルチェレ https://elchele.co.jp ジョワイユ 03-4361-4464

安達 祐実(あだち ゆみ)

1981年生まれ。東京都出身。2歳からキッズモデルとして活動を始め、94年の日本テレビ系ドラマ『家なき子』で本格的にブレイク。同作品の台詞は、新語・流行語大賞にも選ばれるなど社会現象となった。以降も幅広い役をこなす実力派俳優として数々のドラマ、映画に出演する他、ファッションブランドのプロデュース等、活動は多岐に渡る。近年の出演作にテレビドラマ『夫よ、死んでくれないか』、『誘拐の日』、NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』、映画『災 劇場版』、『三日月とネコ』、舞台『ボイラーマン』、『た組「景色のよい観光地」』など多数。

■取材・文:すずき もえ
■写真:境 悠

公演情報

公演名 KEAR CROSS 第七弾『シャープさんフラットさん』

日程・会場
▶︎お問い合わせ

【東京公演】
2026年6月19日(金)〜7月5日(日)
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
▶︎キューブ
03-5485-2252(平日12:00〜17:00)

【名古屋公演】
2026年7月11日(土)~7月12日(日)
Niterra日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
▶︎キョードー東海
052-972-7466
(月~金 12:00-18:00 土 10:00-13:00※日・祝日休み)

【大阪公演】
2026年7月18日(土)〜7月19日(日)
サンケイホールブリーゼ
▶︎ブリーゼチケットセンター
06-6341-8888(11:00〜15:00)

Webサイト

https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/keracross_7

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*1:精神疾患や認知症などの慢性的疾患で長期療養が必要な人のための療養施設