台本を読んでいる間、ずっと驚いていた
本作は「20世紀文学の最高傑作」とも称される小説を原作としていますが、最初に台本を読まれた時の印象はいかがでしたか?
奇想天外という言葉が本当に似合う作品 という印象でした。悪魔が出てきたり、空を飛ぶシーンがあったり、首が飛んだり…台本を読んでいる間、ずっと驚きの表情だったと思います。あまりにも何でもありなので、これをどうやって舞台上で見せるんだろう?と疑問に思うシーンがたくさんありました。この「どう表現するんだろう」と思う部分を作っていくのが、舞台の面白さ でもありますし、原作の小説が好きで観に来られる方もいると思うので、どのような舞台になるのか楽しみにしていただきたいですね。
「どう表現するんだろう」と思うシーンについて、今のところ稽古を通してどのように見せていくか分かってきている部分はありますか?
この作品では、「古代エルサレム」と「1930年代のモスクワ」と「悪魔の世界」の三つの世界が登場 するんですが、その移り変わりを何もない舞台上で表現 します。基本的には役者の芝居だけで場面や世界が変わるのを表現していくんですが、それでも、お客様には「ああ今(場面が)変わったんだな」とすぐ分かっていただけるような演出になると思います。
ただ、空を飛ぶシーンは、まだ今の段階ではどう表現するのか分からないところもあります(笑)映像だったらやろうと思えばできてしまうかもしれないですが、舞台上では本当に飛ぶことはできないですからね。お客様にも想像力を使って楽しんでいただくような形になるかと思います。舞台に限らず、芸術って基本的に正解はない ですよね。お客様それぞれの正解があって良い と思うので、自分の感性を持って観ていただきたいです。
頭の中に常にクエスチョンが浮かんでいる
松島さんの思う、この作品のテーマはなんでしょうか?
作中で「臆病」という言葉がキーワードとして出てきますが、「人間の弱さ」が一つのテーマになっている 気がします。先ほど話した三つの世界の、どの世界・どの時代に出てくる人間も弱さを抱えているんです。人間の弱さって時代や国が変わっても変わらないということに、僕はドキッとする部分がありました。一方で、その変わらなさに励まされている自分もいます ね。
今回演じられる「さすらい人イワン」という役柄についても教えてください。
イワンは新人の劇作家です。モスクワの街に現れた悪魔を追っているうちに精神的に病んでいってしまうような役ですが、僕は「自分の居場所を常に探している人間」なんじゃないか と感じています。当時、作家にペンネームをつけるのが流行っていたらしいんですが、イワンは「さすらい人」と名乗っています。これが英語だと「ホームレス」になるそうです。
ここからは僕の想像ですが、イワンは孤児で学歴もそれほどなかったんじゃないかなと。当時、帝国主義から社会主義に変わろうとしている中で、それまでの身分や階級制度を排除しようという動きもあったので、逆にイワンは自分の生い立ちに価値があると思って「さすらい人」なんてペンネームをつけていたのかも。
それなのに、勝手に作家組合に入れられたり、自分が思っていた以上の期待をかけられたりしてしまって、僕がしたいことは何なんだろう?自分の居場所はここで正解なのかな?と頭の中に常にクエスチョンが浮かんでいるようなキャラクター だと今のところは解釈しています。
稽古が始まって、実際に演じてみた感触はいかがですか?
皆さんと読み合わせ*1 をしてみて、意外と笑えるシーンもたくさんあるんだと驚きました 。一人で台本を読んでいる時には全然気づかなかったんですよ。ブルガーコフが原作の小説を書いた時代は、検閲が厳しくてすぐには出版できなかったそうで、そんな世の中の状況を憎んでいたところもあると思うんですが、説教臭くなく笑いも込めて描いているのが素敵だと感じます。
イワンに関しては、正直今まで演じてきた中でも一番疲れるんじゃないかなと(笑)。まだそこまで心情を細かく演出してもらって…という段階ではないのですが、周りに振り回されてますね。登場する度に周りの環境がどんどん変わっていって、毎シーンついていくのが大変で、心の内を全て吐き出すようなキャラクターなので、とにかく外に出すエネルギーが多くて 、すごく痩せてしまいそうです!(笑)
実は、毎回台本を開く時に「はぁ~」って溜息が出ちゃうんです。1ページ1ページめくるのが重たくて…やりたくないというわけでは全くないですよ!(笑)役者としては、この作品に出ることも、この役をいただいたこともすごく嬉しいですが、ただ、イワンは物語の終盤で、あることを託される人物でもあるので、そのプレッシャーをイワンと共有しているような感覚 で、その責任の重さを日々感じています。やりたくてやっているのに、なんでこんな溜息ついてるのか…役者って不思議ですね(笑)
笑いも涙も緊張感もお客様と共有
複雑な想いで挑まれているのですね…!ここで作品からは離れますが、松島さんが初めて観た舞台の思い出を教えていただけますか?
初めて舞台を観たのは、高校生の時でした。僕は関西出身なんですが、学校の行事で京都劇場へ行って、劇団四季の『オペラ座の怪人』を観たんです。当時はお芝居のことなんて全然分からなかったので、連れて行かれるがまま…という感じだったのですが、船に乗ってる有名なシーンとか、印象的だった場面を景色としては覚えています。皆が舞台に集中している時の静けさや、同じ時間を共有している感覚は記憶に残ってます ね。
ご自分も舞台に立ってみたいと思われたきっかけや特に印象に残っている作品はありますか?
強く記憶に残っているのは、新宿のシアターサンモールで観た東京セレソンデラックス*2 の『くちづけ』という作品です。とんでもなく引き込まれて、すごく感動して泣いてしまったんです。舞台ってすごいな、こんなに感情を動かされるものなんだ と思いました。もう15年くらい前になるかな。俳優の仕事を始めて、1年目か2年目くらいだったと思います。
あと、今話していて僕の初芝居を思い出したんですが…幼稚園児の時にイエス・キリストの役をやったんです。『巨匠とマルガリータ』にもイエス・キリスト*3 が出てきますが、「そういえば僕やったことある!」って(笑)
意外な経験があったことも思い出していただけたところで…松島さんの思う舞台の魅力とはなんでしょうか?
舞台の魅力は、その日・その時間しか味わえない空気を、役者とお客様が共有できる ところに尽きると思います。笑いも涙も緊張感も、お客様も含めて皆で共有している時間が僕は大好きです。稽古場では誰も笑わないだろうなと思った場面で、本番では笑いが起きたりするんですよね。毎回笑いが起きるところが違ったりもします。本当に舞台は生き物で日々変わっていくところがヒリヒリもするし、楽しいところ です。
最後に、『巨匠とマルガリータ』を観に来られるお客様にメッセージをお願いいたします!
難しそうな作品だという印象を持たれる方も多いかもしれませんが、決して理解できない作品ではないし、刺さる部分がたくさんあると思います。ただ、聞き慣れない名前の登場人物が多くて覚えづらいと思うので、公演のHPに載っている相関図を見てきていただけると、より楽しみやすくなる はずです。
イワンは一番お客様と目線が近いキャラクターだと思うので、僕と一緒に旅をしていく気持ちで観ていただけたら嬉しい です。途中で「なんだかよく分からないぞ」と思ったら僕の顔を見てください。たぶん同じ顔をしていると思うので(笑)。僕自身もイワンもプレッシャーを抱えてはいますが、そんなドキドキ感も一緒に楽しんでください!
プロフィール
松島 庄汰(まつしま しょうた)
2007年「アミューズ30周年全国オーディション」で準グランプリを受賞し、俳優としての活動を開始。これまでの主な出演に、映画『クジラのいた夏』『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』『ソフトボーイ』、ドラマ『ベイビーステップ』『ステップファザー・ステップ』『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス~2011』などがある。
【主な舞台】『呪怨 THE LIVE-再念-』『近松心中物語』『昭和から騒ぎ』『Silent Sky』『笑わせんな』『橋からの眺め』『ランボルギーニに乗って』『富美男と夕莉子』『染、色』『ゲルニカ』『99才まで生きたあかんぼう』『里見八犬伝』など。
■取材・文:すずき もえ
■写真:境 悠
公演情報
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