「宿命を背負って揺れる感情を描きたい」シェイクスピア四大悲劇の一つ、現代に生きるハムレットの挑戦(『ハムレット』出演:市川染五郎さん、石黒賢さん)

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2026年5月より日生劇場(東京)を皮切りに、大阪、愛知にて上演される『ハムレット』。ハムレットを演じる市川染五郎さん、ハムレットの叔父クローディアスを演じる石黒賢さんにインタビュー!シェイクスピア四大悲劇の一つである本作に向けた意気込みから、舞台鑑賞初心者におすすめの観劇ポイントまでたっぷりお話を伺いました。

『ハムレット』あらすじ

デンマークの王子・ハムレットは、父王の急死、そして直後に母ガートルードが再婚し、叔父クローディアスが王位についたことに深く苦悩していた。ある夜、ハムレットのもとに父の亡霊が現れる。自らの死はクローディアスによる毒殺だったと告げられたハムレットは、復讐を誓い、狂気を装いながら周囲の反応を探ることに。疑心暗鬼にさいなまれ、恋人オフィーリアや友人との関係も複雑に絡み合っていく中、ハムレットは芝居を利用して叔父の罪を暴こうと試みるが、その行動は悲劇的な連鎖を引き起こし……。
(公式HPより:https://hamlet2026.jp

人生はシンプルな2択でないからこそ悩む

世界的名作である本作に出演するにあたり、それぞれの役にかける想いや、意気込みを教えてください。

染五郎さん:ハムレットは祖父(松本白鸚)と父(松本幸四郎)も演じてきた役であり、本作は私の家(高麗屋)にとってもとても大切な作品です。その作品に挑戦する第一歩を踏み出せることが嬉しいです。この作品は、“デンマークの王子として生まれた宿命の中でどう生きるのか”に葛藤する男の物語です。自分は歌舞伎の家に生まれ、ほとんど生まれた時からこの道を歩むことが決まっていたような環境でしたから、決まった道の中で思い悩むという部分はハムレットとリンクするところかもしれません。「To be, or not to be」という有名な台詞がありますが、その解釈は“生きるか死ぬか”という単純な2択ではなく、“自分がどうあるべきか、どう生きたらいいのか”という自分自身への問いかけのように思います。人生はシンプルな2択ではないからこそ悩むと言いますか、どんな決断をしてどちらに進むのか、その揺れ動く感情こそがハムレットの表現すべき姿なのではないかと思うんです。
人は誰しも人生のどこかで決断を迫られることがあったり、何かしら“宿命”を背負って生きているところがあると思います。そういった意味で世代を問わずどんな方にも重なる部分があると思うので、誰もが共感できるハムレット像を作っていきたいです。

石黒さん:私も今回初めてシェイクスピア作品に挑戦致します。私の演じるクローディアスという役は、兄を殺して王位を奪い更にその妻を妃にするという、設定だけ見ればまさに絵に描いたような悪役です。でもこの人物、実は色んな感情があって面白いんです。愛情深さもあれば、残忍さもあり、幼稚さも見え隠れする、さまざまな感情を内に抱えたとても人間らしい存在です。もしかしたら、クローディアスの気持ちも理解できると感じる瞬間があるかもしれません。もちろんほとんどの方に「このやろう」と思われるでしょうけど(笑)だからこそ単なる悪役として描くのではなく、私なりにクローディアスという男を愛し、その多面性を丁寧に掘り下げたいと思っています。

“2026年の『ハムレット』”を目指して

お二人とも初めて本格的にシェイクスピア劇に挑戦するとのことですが、意識されることはありますか?

染五郎さん:ハムレットに限らず、 シェイクスピア作品はどんな時代の人にも響く普遍性があると思います。何百年も世界中で上演され続けているのは、人間の本質的なところを描いているからなのだと思います。本作は1600年前に書かれた戯曲で、デンマークが舞台のお話ですが、時代や国が違っても人間ということで言えば変わらないですし、同じ人間といってもいろんな人がいるわけで...演じる上で特別に意識を変えることはないです。だから観にきてくださる方も「難しそう」と構えずに、登場人物の感情や葛藤を素直に追っていただけたらいいのかなと思います。もちろん、その時代に根付いている生活様式や、当たり前だった価値観などは今と変わっているところもあるので、当時の人の感覚になれるように勉強しているところです。先日、物語のモデルになったデンマークのクロンボー城を訪れ、当時の空気を感じてきました。そこで感じた経験も注ぎ込みながらハムレットをつくっていけたらと思います。

石黒さん:正直、最初はシェイクスピアって敷居が高いものだと思っていました。でも本を読めば読むほど言葉の力に圧倒されて面白いなと思ったんです。「メメント・モリ(memento mori)」という言葉がありますが、“死を想え”という意味なんですね。それは言い換えると“生を感じろ”ということだと思うんです。この作品にはその感覚が底流に流れていると感じました。ハムレットの台詞には「役者は時代の証人である」とあります。なので私たちはこの2026年の『ハムレット』をやらなければいけないと思っていますし、今を生きているみなさんに届けなくてはと改めて責任を感じています。

「ショー・マスト・ゴー・オン」その日その瞬間の緊張感

お二人の思う舞台の魅力とは何ですか?

染五郎さん:舞台って“劇場”という一つの空間の中でいろんな景色が見えるんですよ。 どれだけ場面が変わっても現実空間としては同じ場所にいるわけで、それを王宮に見せたり、野外に見せたり工夫を凝らして表現するんです。お客様も役者も同じ空間を共有していて、その場所がどんな景色に見えるかは演技力と想像力に委ねられる部分があります。すべてがリアルなわけではないので、ある種「そういう風に見せる」というのが舞台の芝居には必要です。今回の舞台も、演じているのは染五郎ですが、ふとした瞬間にハムレットそのものに見えたら嬉しいですね。その時、お芝居が嘘ではなく真実があるように感じてもらえるのかなと。自分は舞台のその瞬間がすごく好きなんです。

石黒さん:舞台の魅力は、なんといっても1回きりの「ショー・マスト・ゴー・オン(The show must go on)」というところじゃないでしょうか。同じ演目をやっても役者同士の呼吸、お客さんの空気感は毎回違って、その日その瞬間だけのものなんです。だからこそ毎回緊張するんですが、その緊張の中で常に全力を尽くします。悔しい思いもしながら、それでもあの高揚感を忘れられなくて舞台に立つんです。一回きりの緊張感がまさに舞台の醍醐味だなと思います。

最後に、本作をご覧になる方へ向けてメッセージをお願いします!

染五郎さん:自分が演じる意味を大切に、今までの経験や感じたものを注ぎ込みながら演じていけたらと思います。そして、デヴィッド・ルヴォーさん演出のもと、今までにない『ハムレット』になるんじゃないかとワクワクしています。生きた演劇、現代に生きるハムレットをつくりたいと思っていますので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。

石黒さん:舞台は、その空間を観客と俳優、スタッフ全員でシェアしているので、唯一無二の数時間です。濃密な時間になると思うので思いっきり浸ってほしいです。そして『ハムレット』って難しいんじゃない?私なんかにわかるかな?と思わず、構えずに楽しんでほしいですね。逆に『ハムレット』を観ないでどうしますか!という感じですよ(笑)ぜひこの機会に、ど真ん中の演劇、シェイクスピアの名作を楽しんでもらいたいです。

プロフィール

■市川染五郎さん
ヘアメイク/桂川あずさ
スタイリング/中西ナオ

■石黒賢さん
ヘアメイク/青木理恵
スタイリング/寳田マリ

市川 染五郎(いちかわ そめごろう)

2005年3月27日生まれ。松本幸四郎の長男。祖父は松本白鸚。
07年6月歌舞伎座『侠客春雨傘』の高麗屋齋吉で藤間齋の名で初お目見得。09年6月歌舞伎座『門出祝寿連獅子』の童後に孫獅子の精で四代目松本金太郎を名のり初舞台。18年1・2月歌舞伎座で八代目市川染五郎を襲名。近年の主な歌舞伎出演作に、『源氏物語』(24年)、歌舞伎 NEXT『朧の森に棲む鬼』(24年・25年)、『木挽町のあだ討ち』(25年)ほか。映画「レジェンド&バタフライ」(23年)、「鬼平犯科帳 血闘」(24年)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22年)、「鬼平犯科帳」新シリーズ(24年)、PrimeVideo「人間標本」(25年)ほか
映像作品にも数々出演し、「レジェンド&バタフライ」では第47回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。

石黒 賢(いしぐろ けん)

1966年1月31日生まれ。
1983年、ドラマ「青が散る」でデビュー。映画・ドラマ・舞台・ラジオなど多方面に活躍。その他にも絵本の翻訳や「ウィンブルドンテニス」のスペシャルナビゲーターを務めるなどマルチな才能を見せている。近年の出演作品に、テレビ「ラストマン-全盲の捜査官-」(23年)、「ダブルチート 偽りの警官Season1」(24年)、「アイシー~瞬間記憶捜査・柊班~」(25年)、映画「時の行路」(20年)、「マスカレード・ナイト」(21年)、舞台『脳内ポイズンベリー』『7本指のピアニスト~泥棒とのエピソード~』(22年)、『反乱のボヤージュ』(25年)、朗読活劇『信長を殺した男 2024』(24年)などがある。

■取材・文:境 悠

公演情報

公演名 ハムレット

日程・会場

【東京公演】
2026年5月9日(土)~30日(土)
日生劇場

【大阪公演】
2026年6月5日(金)~4日(日)
SkyシアターMBS

【愛知公演】
2026年6月20日(土)~21日(日)
名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール

Webサイト

https://hamlet2026.jp

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