「まずは“感情移入できる作品”を気楽に観てほしい」俳優&演出家が語る初心者向け舞台の魅力と楽しみ方(『反乱のボヤージュ』主演 石黒賢さん/脚本・演出 鴻上尚史さん)

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2025年5月に上演される舞台『反乱のボヤージュ』出演される石黒賢さん、脚本・演出を手がける鴻上尚史さんに、俳優・演出家それぞれの目線から舞台の魅力や楽しみ方、そして本作の見どころを教えていただきました!

舞台はもっと気楽に観てもらいたい

まず、舞台初心者の方に向けて、舞台の「ここが魅力だ!」という点や、「初めて観劇するなら、こんな風に観ると良い」というアドバイスがあれば教えてください。

鴻上さん:人生で初めて舞台を観るなら、とにかくわかりやすい作品を選ぶべきです。
注意しなければいけないのは、「推し(好きなタレント)が出ているから」という理由だけで難解な芝居を観てしまうこと。

例えば、初めてシリアスな西洋演劇を観に行っても、話が難しくて理解できないこともあります。「舞台ってよくわからない」という感想を持ってしまい、演劇が嫌いになって、劇場に戻ってこなくなってしまう残念なケースはあります。

舞台の楽しみ方は少しずつ習熟していくものですから、最初は何の予備知識がなくても楽しめる、自分が感情移入できるキャラクターがいる作品を選ぶのがおすすめです。

加えて、出演する俳優が舞台経験豊富かどうかをチェックするのもポイントです。

舞台は映像作品と違い、カメラワークや編集などの要素がないので、演技の実力が顕著に現れます。だから、舞台経験豊富な俳優が出ている作品を選ぶと、より良い観劇体験になると思います。

石黒さん:それと、「観劇はお行儀よくしなきゃいけない」と思う必要はありません。もちろんマナーは大切ですが、笑ってはいけないとか、決して緊張して観るものではないですよ。

以前、客席との距離が近い劇場で芝居をしたとき、セリフを言いながら客席に近づいたら、お客さんがスッと身を引いてしまったんです。きっと自分の足につまずかないようにと気を遣ってくれたんでしょうね。 でも、本当は「君、頑張れよ!」とか、お客さんと俳優の交流があってもいいと思うんです(笑)

海外の舞台では、お客さんがノリよく一体感を持って参加していますけど、日本では演劇がちょっと格式高いものと捉えられている節がありますよね。もっと気楽に観てもらいたいです。

俳優と観客の間で“気”の交換が起こる

映像コンテンツも豊富なこの時代に、舞台を観る価値はどんなところにあると思いますか?

石黒さん:やはり「生身の人間が、ある人間の人生を目の前で繰り広げる」という点が大きな魅力です。舞台では、俳優と観客の間で“気”の交換が起こります。これは映像では味わえないものですね。

僕は何人もの先輩に言われたことがあるんです。「舞台は、お客さんの背中をどれだけ背もたれから離せるかが勝負だ」と。つまり、いかにお客さんを前のめりにさせて、引き込むかが大切なんです。

これはもちろん映像でもいえることですが、生の舞台ならではの魅力は、そういう意気込みをもって演じている俳優を“目の前”で見られるという点ですね。

鴻上さん:映画は同時に全国数百ヶ所で上映されるという、スケールの大きな魅力があります。一方で、舞台は基本的にひとつの場所でしか上演されません。

でもだからこそ、映像の中でしか観たことがなかった俳優さんと生身で対峙したときの、「こんなに存在感があるんだ!」という感動は、舞台ならではのものだと思います。

それが、どんなにデジタルの時代になっても演劇が生き残っている理由だと思います。

初めての観劇は、理解できませんでした(笑)

お二人は初観劇のときの記憶はありますか?

鴻上さん:僕の母親が演劇好きだったんですよね。5歳のときに母親に連れられて、地元である愛媛県・新居浜の演劇鑑賞会で、初めてミュージカルを観ました。

その頃は内容は理解できなかったんでしょうね、途中で通路を走り回ったりもしました(笑)けれど、すごく不思議な空間で記憶に残っています

石黒さん:僕は仕事で関わった方々に「今度舞台をやるよ」と声をかけてもらうことが増えたのをきっかけに、舞台を観に行くようになりました。

でも、最初は難解な作品を観てしまって、あまりピンとこなかったんですよね(笑) だから、やはり最初の作品選びってすごく大事だと思います。

誰もが感情移入できるキャラクターがいるはず

そんなお二人が今回作り上げる、青春群像劇『反乱のボヤージュ』の見どころを教えてください。

鴻上さん:この作品は、「取り潰されそうな学生寮の学生たちが、大学の大人たちと戦う」というわかりやすいお話で、初めて観劇をする方にもぴったりです。 若い人は学生に、中高年の人は大人の役に、誰もが感情移入できるキャラクターがいると思います。

特に、反乱する側の 10 代・20 代の若い方にこの作品を見てもらいたいなと切に思います。石黒さん演じる学生寮の舎監が、学生たちに向かって『お前らはフワフワしていて、地に足がついてない』と言うシーンがあるのですが、ぜひその説教に対して『なにくそ!』と思ってもらいたい

そして、上の年代の方には、ノスタルジー、忘れていた感情を思い出してもらえればと思います。

石黒さん:この作品では、僕の演じる学生寮の舎監・名倉が、学生と心を通わせる姿が描かれます。“父性”をテーマに、学生たちとの心の距離をうまく表現したいです。

今の若い人は、熱いことがダサいことだと思っているわけではないはずなんですよね。ただ、熱くなるというのがどういうことか、わからないだけなんじゃないかなと。この作品が、ひとつの指針になればいいなと思います。

最後に、観客の皆さまに向けて、メッセージをお願いします。

鴻上さん:とにかく、騙されたと思って観に来てください!面白さは保証します。もしそうでなければ、劇場で僕にクレーム入れにきてください(笑)

石黒さん:目の前で生の舞台をお届けできることの価値を改めて感じています。お客様が足を運んでくださる以上、その誠意に応えられるよう、しっかりとした舞台を届けたいと強く思っています。

ぜひ気楽に観に来てほしいです!

プロフィール

石黒賢(いしぐろけん)

1966年生まれ。俳優、児童文学翻訳家。1983年、ドラマ『青が散る』で主演デビュー。以来、映画・ドラマ・舞台・ラジオなど幅広い分野で活躍。絵本の翻訳やナレーションも手がけ、2012年より「ウィンブルドンテニス」(WOWOW)のスペシャルナビゲーターを務める。2024年は舞台「7本指のピアニスト」(7月 サンシャイン劇場)、「脳内ポイズンベリー」(8月~9月 東京・明治座/大阪・クールジャパンパーク大阪WWホール)に出演。2025年にはドラマ『アイシー~瞬間記憶捜査・柊班~』で安田大丸役を務める。

鴻上尚史(こうかみしょうじ)

1958年、愛媛県生まれ。作家・演出家。早稲田大学在学中に劇団「第三舞台」を結成し『朝日のような夕日をつれて』『天使は瞳を閉じて』『トランス』を始め多くの作品を手がける。1987年に紀伊國屋演劇賞、1994年に『スナフキンの手紙』で岸田國士戯曲賞、2010年に『グローブ・ジャングル』で読売文学賞戯曲賞を受賞。演劇の他には、エッセイスト、小説家、ラジオ・パーソナリティ、映画監督など幅広く活動。近著に「鴻上尚史のほがらか人生相談」(朝日新聞出版)、「君はどう生きるか」(講談社)ほか多数。

公演情報

日時・場所 2025年5月6日(火・祝)〜5月16日(金)
東京都 新橋演舞場

2025年6月1日(日)~6月8日(日)
大阪府 大阪松竹座
Webサイト 反乱のボヤージュ
公演に関するお問い合わせ 新橋演舞場:03-3541-2600
大阪松竹座:06-6214-2211