2025年6月に上演される、熱海五郎一座新橋演舞場シリーズ第11弾『黄昏のリストランテ~復讐はラストオーダーのあとで~』にゲスト出演する羽田美智子さんに、舞台ならではの魅力や、演じるうえでの工夫、そして舞台初心者にも楽しめる本作の見どころについてお話をうかがいました。
映像はスピード感あり、舞台は熟成期間あり
台本を受け取ってから本番までに、役作りをどのように進めていくのでしょうか?
台本をいただいたらまずはセリフをきっちり覚えて、それから役を掴んでいっています。映像は、台本をいただいてすぐ“撮って出し”するスピード感がありますが、舞台の場合は「あ、今の違う言い回しだったかな?」「こういう風に変えたほうがいいかな」とか、稽古の中で役の解釈がどんどん膨らんでいきます。本番までに熟成する時間があるのが大きな違いですね。
最初は自分が感じたまま演じてみます。でも、他の人と呼吸や温度感にズレがあったら、演出家の方からアドバイスをもらったりして修正して、完成形まで日々稽古を積み重ねていきます。振り返ってみると、あんなに大量のセリフをいつの間に覚えられたのだろうっていつも思います(笑)
感情が乗っていない言葉って、身体に負担がかかるんです
稽古にはどのような意識で望まれていますか?
稽古は「自分の思いとセリフを一致させる訓練」だと思って臨んでいます。 セリフをきっちり覚えるのは当然なのですが、舞台に立つと覚えた言葉をただ発するのではダメなんですよね。自分の中から、自然に、瞬間的に言葉が出せるようにならないといけないんです。
自分で自分のことを研究してわかったのですが、覚えたことをただ口に出しているだけでは、喉にとても負荷がかかってしまうんですよ。例えば、驚く演技のとき、「ギャーッ」というセリフを覚えて、ただ発するだけだと喉を潰してしまうのですが…
本気で驚いて、つまり気持ちが伴って自然に声を出せていれば、喉が枯れることなく続けられるんです。だから、自分の思いとセリフを一致させることを目指して稽古に取り組んでいます。
悲しい役だと私生活もしょんぼり
役によって、素のご自身に影響が出ることはありますか?
あります、あります。色んなものを背負った悲しい人や、かわいそうな人を演じていると、プライベートでもしょんぼりしちゃったり。一方、強気な役をやっていると、プライベートでも強気になったり。
あと、舞台をやっている期間は、友人と電話で話していると「いつもより声が大きい」と言われがちです。稽古では、劇場の客席の一番奥まで声を届ける意識で発声をするので、知らず知らずにそれが染み付いてしまって、日常でも声が大きくなってしまうみたいなんですよね(笑)
舞台上では常に誰かに見られている
舞台と映像、それぞれの演じる難しさはどんなところにあるでしょうか?
映像のお芝居では、“台本が映像化されるイメージ”を浮かべながらカメラの前で演じます。一方、舞台は空間全体が芝居場なので、常に“お客さんにどう見えているか”を考えながら演じる必要があります。舞台に上がった以上、常にその芝居の中の役として存在していないといけない。映像は「スタート」「カット」ですぐに素の自分に戻れるので、そこは大きな違いですね。
でも、舞台は起承転結のひとつの流れで感情が動いていくので、やりやすい面もあります。映像だと何回も同じシーンを撮り直すので、何度も気持ちを作り直さなくてはいけなかったり、一番感情がたかぶるラストシーンから撮る場合があったりしますからね。
あと、舞台ならではといえば、お客さんの反応を待つ時間があることです。お客さんが笑うところって稽古中にはわからない。でも本番では、笑ってくださるところがあったら、その笑いが落ち着くのを待ってから次のセリフを言う。お客さんと呼吸しながら舞台を作り上げるというのが難しくもあり、新鮮な経験です。
お客さんがいると、稽古以上の力が出る
同じ作品でも日によって違いはあるものですか?
ありますよ〜!「うまくいった!」と思った次の舞台で、「あれ、また元に戻っちゃった」とか、「さっきは息がすごく合っていたのに、今回はバラバラだったな」とか。
それはやっぱり、お客さんとの相性もあると思うんですよね。どんなに楽しんでくださっていても、あんまり舞台上まで笑い声が届かないと、「あれ、楽しんでもらえていないのかな?」って俳優は焦ってしまったり。逆にすっごくノリの良いお客さんがいると、芝居がどんどん跳ねていって有頂天になる時もあります(笑)
稽古場でやったことが全てではあるけれど、お客さんが入ったときに俳優が稽古以上の力を出し始める。その空間を一緒に作っていく感覚が、舞台の魅力なんですよね。
笑わせるって、泣かせるよりも難しい
今回出演される『黄昏のリストランテ』は喜劇ですが、人を笑わせる演技についてはどうお考えですか?
喜劇は悲劇よりも難しいって言われているんです。人を泣かせるよりも、笑わせるほうが難しい。なぜかといえば、人によって笑いのツボも違うし、「間」もすごく重要だからなんですよね。だから、笑ってもらえることがあったら、役者冥利に尽きますね。
熱海五郎一座には、その場のアドリブなどで予期せぬ笑いをとるのではなくて、稽古通りにきちんと計算された笑いを届ける、つまり「笑わせるべくして笑わせる」というこだわりがあると聞いています。観客の笑いが“偶然”ではなく、“意図して仕掛けた結果として”起こることを狙う。それを表す「笑われたら最後。笑わせられたら最高」という言葉を教えていただきました。今回は私もそれをしっかりと体現したいなと思います。
熱海五郎一座ならでは“フルコースのような舞台”
観劇初心者にとって、この作品の見どころはどんなところでしょうか?
『黄昏のリストランテ』は、前菜のような東さんと深沢さん(交互出演)の前説から始まって、まるで全部美味しいフルコースの料理みたいな舞台になると思います。
熱海五郎一座の舞台の特徴は、歌舞伎や落語、日本の伝統芸能の要素を少しずつ取り入れながら、1つのエンターテインメントの世界を作っていること。歌あり、踊りあり、アクションあり、最後は歌謡ステージもあって、それを全部見せてもらえる盛りだくさんな舞台なんです。
昭和から令和まで活躍している「喜劇と言えばこの方たち」というような大ベテランのレジェンドたちが、一堂に会するのも贅沢ですよね。
さらに、新橋演舞場という劇場の造り自体も特別で、歌舞伎座みたいに花道があったり、桟敷席があったり。日本の伝統的な雰囲気で、非日常感が味わえるんですよ。お弁当を見たり、お土産を見たり、喫茶室に寄ったり、古き良き劇場空間も楽しんでほしいです。
食にまつわる登場人物たちの、スカッと笑える人間ドラマ
羽田さんが演じる役柄と、作品の内容を簡単に教えていただけますか?
私が演じるのは「板召美良乃(イタメシミラノ)」っていう名前からしてちょっとふざけたキャラクターで、イタリアンレストランのシェフなんです。見た瞬間、私も吹き出しちゃいました(笑)。もう、イタメシを作るために生まれてきた人みたいな役ですね。お兄さんの名前が「蓮田由輝(ハスダユデル)」で、“パスタゆでる”をもじっていて…もう名前の時点ですごく面白いんです。
物語には食にまつわる登場人物たちが出てきて、悪いことをする人もいれば、復讐を企てて前に進もうとする人もいたり。でもその中で同士感が芽生えたり、友情が生まれたり、色んな人の思惑が交錯します。
笑えるけれど、ちゃんと人間の愛憎劇もあって、見ている人が「私はこの人に似ているな」「この人の気持ち分かるな」と、それぞれの立場で共感できるはずです。最終的には、誰か一人を“悪人”と決めつけるのではなくて、悪人にすら同情が集まるような——“必要悪”というか。
そんなふうに人間ドラマが描かれつつ、最後にはスカッとして、「この世界も捨てたもんじゃないな」って、ちょっと前向きになれるような舞台になるんじゃないかと思っています。
最後に舞台を観に来られる方々へ、メッセージをお願いします!
私自身、熱海五郎一座のファンで、去年までは客席でこの舞台を観ていました。だからオファーをいただいた時、「えっ、私があっち側に行くの!?」とびっくりしました。最初は怖かったし、今も稽古前だからちょっと心配はありますけど、自分にとってすごく良いチャレンジになると思っています。
大舞台で皆さんを笑顔にする“料理”を振る舞いたいと思っていますので、ぜひ“食べに”来てくださいね!
プロフィール
羽田美智子(はだみちこ)
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日程 | 2025年6月2日(月)~6月27日(金) |
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会場 | 新橋演舞場 |
Webサイト | 熱海五郎一座2025 |
公演に関するお問い合わせ | 新橋演舞場 03-3541-2600 |