「人は愛ゆえに道を踏み外す」猟奇的な物語に潜む人間の弱さと脆さ(ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』出演:加藤和樹さん)

“切裂きジャック”を題材としたミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』。チェコ共和国で創作された原作を元に、韓国でアレンジされ、ロングランヒットを記録した人気作です。日本では2021年に白井晃の演出により初演を果たし、多くの観客を魅了した本作が待望の再演を迎えます。

初演から引き続き、捜査官アンダーソンと殺人鬼ジャックの二役*1を務める加藤和樹さんにインタビューを実施!アーティストとしても長く活躍している加藤さんですが、歌についてはまだまだ課題と感じることもあるそうです。作品についてのお話にとどまらず、初観劇の思い出やミュージカルの魅力などたっぷりと伺いました。

ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』あらすじ

1888年、霧深いロンドン。 そこには、娼婦だけを狙う残忍な殺人鬼 ジャック・ザ・リッパー(加藤和樹/堂珍嘉邦)の影が蠢いていた。 捜査官アンダーソン(加藤和樹/松下優也)は非公開での捜査を試みるも、スクープに飢えたロンドンタイムズ紙の記者モンロー(田代万里生)の執拗な追及に遭う。麻薬に溺れ金に困窮していたアンダーソンは、ついに情報の切り売りという禁断の取引に応じてしまう。

そんな中、アンダーソンの前に犯人を告発しに現れたのは、アメリカ帰りの若き外科医ダニエル(木村達成/平間壮一)だった。彼と元娼婦のグロリア(熊谷彩春)を繋ぐ、ジャックとの忌まわしき因縁。 事件が混迷を極めるなか、アンダーソンは一か八かのおとり捜査を計画するが、新聞の1面にはあろうことか「ジャック・ザ・リッパー」の殺人予告が掲載される。かつての恋人ポリー(花乃まりあ)をも巻き込み、惨劇は加速していく。

果たして、闇に潜む「ジャック」の正体とは? そして、その凶行に隠された真の目的とは――。
(公式HPより: https://horipro-stage.jp/stage/jacktheripper2026/ )

愛ゆえに道を踏み外してしまう人間らしさ

本作『ジャック・ザ・リッパー』は5年ぶりの再演となります。加藤さんは初演から出演されていますが、前回の反響や作品について振り返ってみていかがですか?

お客様からは「ラストに衝撃を受けた」という反響を多くいただきました。猟奇的殺人鬼のジャック・ザ・リッパーを題材にしているので、おどろおどろしくてちょっとグロいんじゃないかというイメージを持つ方も多いかもしれません。もちろんそういったシーンもなくはないのですが、人間の欲望や愛、狂気、弱さといった大切なテーマがたくさん詰まった作品です。

その中でも「人間の愛ゆえの愚かさ」が特に大きなテーマだと思っています。裏を返せば、他者のために人間はここまでできるんだという驚きにも繋がるのですが、登場人物たちが愛ゆえに道を踏み外してしまうところに、人間の脆さや人間らしさを感じる物語という印象を持っています。

得体の知れない魅力の出し方を探る

初演の際に演じられた捜査官のアンダーソン、殺人鬼のジャックの二役で今回も出演されますが、同じ作品の中で二役演じられる面白さや難しさは、どのように感じていますか?

一番難しいと思うのは、稽古場で役を切り替えて稽古することなんです。本番は同じ役を通してやるので迷うことはないんですが、稽古中はどうしても、ジャックのシーンとアンダーソンのシーンを交互にやったりすることもあるので、気持ちの切り替えをしていかないといけない。そのために稽古着を変えてみたりしていましたね。

今回の作品に限らず、役柄に合った服装だったり帽子などを身に付けたりされる方も多いんです。衣裳さんが用意してくださる場合もあるのですが、稽古のはじめのほうに、世界観や衣裳について教えていただくので、少しでも作品に入り込めるように…と自分たちで考えることもあります。面白い柄のTシャツなんかを着て稽古していると、なかなか雰囲気が出なかったりもしますから(笑)

皆さんそれぞれに工夫されるんですね!二つの役の表現の仕方について特に意識しているところなどはありますか?

演じるキャラクターによって性格はもちろん、声色や歩き方・立ち方も変わりますが、特別意識せずとも自然にそうなっていく気がします。見た目も全然違うので別人には見えるんですが、パッと出てきた瞬間に、アンダーソンはアンダーソンとして、ジャックはジャックとして見えるような佇まいとオーラを背負えるようには心がけています。

それぞれの役について、再演でさらに深めていきたいところなどはありますか?

アンダーソンは、この物語の中心となる事件を追っていく人物ですが、心の内にある葛藤だったり、脆く弱い部分を見せる役でもあります。なので、心の揺れ動きや感情の部分を前回以上に繊細に作り上げていきたいです。元恋人で、今も大切に想っているポリーとの関係性もしっかり作っていきたいですね。彼らの過去については、物語の中でははっきり描かれていないんですが、二人がやり取りする短いシーンの中でも、彼らの間に何があったのか想像させるような心のやり取りができたら、より面白くなるんじゃないかと思っています。

ジャックに関しては、より自由に狂気的に演じたいですね。初演の時に、Wキャストでジャックを演じていた堂珍(嘉邦)さん*2が、本当に自由で観ていて気持ちいいくらいだったんです。型にとらわれないからこそジャックらしいというか。

ジャックに限らずですが、人間離れしたキャラクターだと、普段人がしないような動きだったり表情だったり、何かちょっとした違和感があるほうが観ている人は食いつくと思っています。誰もが追いかけているけれど、実体がなくて掴めないという孤高の存在でもありたいですし、得体の知れない魅力をどうやったら出せるのか、稽古で探っていきたいですね。

意外と日常につながっているメッセージ

ご自身の初観劇の思い出は覚えていらっしゃいますか?

初観劇か、何だったんだろうなぁ…子どもの頃から舞台を観るという経験はあまりなかったもので。この仕事を始めてから、20代前半くらいの頃ですが、『レ・ミゼラブル』を観た記憶はあるんです。何の前情報もなく観に行って、本当に圧倒されたのはすごく覚えています。まだグランドミュージカル*3の舞台に立たせていただくようになる前でしたし、自分とはほど遠い世界だなと感じましたね。そういった(大きな)舞台に立ってみたいという気持ちもなかったですし、「すごいなぁ、ずっと歌いっぱなしで」とか思ってました(笑)

当時は「ほど遠い」と感じていた世界で今活躍されている加藤さんですが、ミュージカルの魅力とはどういったところだと思われますか?

物語自体は、日常とはかけ離れた世界観で描かれることが多いですが、その中にも日常に通じる伝えたいことが散りばめられているのが魅力だと思います。全然自分とは関係ないことのように思えても、意外とつながっている部分ってあると思うんです。非現実的な世界に没入できる楽しさもあるけれど、その一方で届けたいメッセージも作品には必ず込められています。それをお客様がキャッチできるように、我々もお芝居を作っていかないといけないと思いますね。

それから、音楽があることでより感情に訴えやすくなっているところもミュージカルならではだと思っています。人にとって耳からの情報って、実はすごく大切だと感じていて、音楽と言葉が合わさることによって心と体にすんなりと入ってくる感覚があるのではと。もちろんセリフで伝えられることはたくさんありますが、音楽と一緒になることでより拡大して届けることもできるし、お客様もより増幅した感情を受け取ることができる。音楽の持つ力は大きいと感じています。

言葉が届かなければ意味はない

アーティストとしても活動されていますが、ご自身のライブなどで歌うときとミュージカルで役として歌うときは、意識されることに違いはありますか?

意識することは同じですね。歌う人物が違うから表現の仕方が少し変わるという感覚です。自分自身として歌う時は自分というフィルターを通して歌詞のストーリーや主人公の気持ちを伝える、ミュージカルの時は役を通して物語や感情を伝える、という違いだけだと思っています。

歌の技術を磨くのももちろん大切ですが、届けたいのは歌に込められた物語や想い、つまり言葉(歌詞)なんですよね。言葉が届かなければ意味はないくらいの気持ちでいます。音楽として成立させつつ言葉も立たせるのは難しいんですけどね。20年アーティストとして活動していますが、まだまだ課題だらけだなと思っています。

まだあまり舞台を観たことがない方に向けて、おすすめの舞台の楽しみ方を教えていただけますか?

作品にもよりますが、ある程度予備知識を入れてから観たほうが楽しめると思うので、パンフレットを買うことをおすすめしたいです。僕が観客として観に行くときは必ず買うんですが、登場人物の相関図だったり物語の説明だったり、本当に丁寧に作られているんですよ。座談会や対談のページはネタバレが含まれることも多いので、観劇後に読んだほうが良いかもしれないですけど(笑)あらすじやキャラクターの関係性を知っておくだけで、舞台が始まってからの理解度が変わってくると思います。

最後に、『ジャック・ザ・リッパー』を観劇されるお客様に、一言メッセージをお願いします!

「ジャック・ザ・リッパー」という名前を耳にしたことがある方は多いのではと思いますが、今回の作品でどういった物語として描かれるのかは、ぜひパンフレットを読んで知っておいていただけると良いかなと(笑)もちろん公演のWebサイトなどにも情報は載っているので、少し予習してきていただけるとより楽しめると思います。我々が目の前で繰り広げる歌や踊りやお芝居といったエンターテインメントを味わいに来ていただきたいです。

プロフィール

加藤 和樹(かとう かずき)

1984年生まれ、愛知県出身。2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月Mini Album「Rough Diamond」でCDデビュー。俳優としてはミュージカル・舞台・声優・ドラマ・映画へと活動の場を広げている。『ローマの休日』ジョー・ブラッドレー役、『BARNUM/バーナム』フェニアス・テイラー・バーナム役の演技に対して第46回菊田一夫演劇賞・演劇賞受賞。2024年に出演したブロードウェイミュージカル『カムフロムアウェイ』が、第32回読売演劇大賞 選考委員特別賞を受賞。2027年には、ミュージカル『キングアーサー』『ファントム』への出演が控える。

■取材・文:すずき もえ
■写真:境 悠

公演情報

公演名 ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』

日程・会場
▶︎お問い合わせ

【埼玉公演】
2026年12月17日(木)~12月21日(月)
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
▶︎ホリプロチケットセンター
03-3490-4949 (平日11:00~18:00/土日祝休)

【茨城公演】
2026年12月26日(土)~12月27日(日)
水戸市民会館 グロービスホール
▶︎水戸市民会館 029-303-6226
(平日9:00~20:00/土日祝日9:00~17:00)

【愛知公演】
2027年1月16日(土)~1月17日(日)
一宮市民会館 大ホール
▶︎中京テレビクリエイション
052-588-4477(平日11:00~17:00)

【大阪公演】
2027年1月22日(金)~1月24日(日)
フェニーチェ堺 大ホール
▶︎キョードーインフォメーション
0570-200-888(12:00~17:00/土日祝休み )

【東京公演】
2027年1月29日(金)~2月7日(日)
新宿文化センター 大ホール
▶︎ホリプロチケットセンター
03-3490-4949 (平日11:00~18:00/土日祝休)

Webサイト

https://horipro-stage.jp/stage/jacktheripper2026/

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subscription.recri.jp

*1:アンダーソンは松下優也さん、ジャックは堂珍嘉邦さんとのWキャスト

*2:今回もジャック役として、加藤さんとのWキャストで出演

*3:1,000席以上の大規模な劇場で、オーケストラの生演奏、豪華な舞台装置や高い歌唱力・演技力を持つキャストによって上演されるスケールの大きなミュージカルの総称