全裸というのが、こんなにも強いなんて
1997年のイギリス映画をもとに、物語の舞台をアメリカに移してミュージカル化された『フル・モンティ』。原作の映画も踏まえ、どのような印象をお持ちですか?
印象深いのは、主人公たちがどん底から世間の常識を飛び越えて、たった1日のとある瞬間だけ皆のヒーローになる、すごく爽快なエンディングです。否定され続けていた人たちが、最後にリベンジしてくれるというか、心のかたきをとってくれるようなスカッとする作品なんですよね。ハツラツとしていて、これはミュージカルにピッタリな作品だと思いました。
山本さんが思う、作品のポイントをぜひ教えてください。
コメディタッチなのに、流れてくる音楽がめちゃくちゃかっこいいんですよ。たとえば、男同士でちょっとセクシーな本を覗きこむシーンに、サウンドだけ聴いたらとんでもなくかっこいい曲が流れていたり。もう、僕の一番好きな曲レベルで(笑)「ここに、こんなかっこいい曲を当てるの!?」っていう驚きがあるんです。
もうひとつ、マルコム役の青年が悩み落ち込んでいるシーンでは、仲間たちが彼を励ます歌が、ラブリーで最高なんですよ。歌詞を知らずに聴いていると「君の世界が止まっても、僕たちはずっとそばにいるよ」みたいな感動的な曲調なんですけど、実際の歌詞は「お前が死にたいって言うなら、この石でお前の頭を一緒にかち割ってやるよ。友達だもんな」っていう(笑)全然曲調と反対のことを歌っているんですよね。
最初は歌詞を見ずに曲を覚えていて、あとから歌詞を読んだらもう面白くて面白くて。すごく感動的な曲なのにブラックジョークというか、音楽と歌詞のギャップがこの作品の面白さを生み出していると思うんです。歌があるからこそ面白くなる。そんな作り方が素晴らしいなと思います。
音楽とストーリーとキャラクターがフィットしている感じが、ミュージカル版『フル・モンティ』の魅力だと思います。
あらゆるところに散りばめられた「ギャップ」がこの作品の魅力なんですね。
そう、知れば知るほど好きになる作品なんですよ。ストリップショーというコメディらしい題材を扱いながら、その根底にはとても熱い人間ドラマが流れているんです。この作品が描いているのは「自分を守るために着飾るのではなく、全部を脱ぎ捨てる」ということ。全裸になるという行為が、こんなにも強い意味を持つんだとすごく感じました。
本作は、それぞれの悩みを抱えた男性たちが主人公なのですが、そのテーマは男性たちだけの話ではないんです。スキンシップがなくなってしまった夫婦関係や、未だに母親と暮らしていることへの引け目など、それぞれが抱える弱さやジレンマがある。そんな彼らが「この瞬間だけは全ての悩みとおさらばするぜ」と覚悟を決めて舞台に立つんです。その先に待っているのが“全裸”っていうところがまた面白いんですけど(笑)非常に人間らしくて、本当にいい作品だなと思います。

子どものためなら、何でもする
山本さんが演じるジェリー役は、どんな人物ですか?
実はジェリーって、作品の中で特に際立った個性があるわけじゃないんですよ。他の仲間は、ぽっちゃりとか、ちょっとダサいとか、弱虫とか、いろんな個性があるんだけど、ジェリーは特別何か色があるわけじゃない。うだつが上がらない主役なんです。
彼の中で唯一強いのは、息子がいるところでしょうね。僕にも子どもがいるので、息子のために奔走するところがすごく共感できて。子どものためなら何の迷いもなく何でもするところが、ジェリーの一番の核になっているし、一番共感できる部分です。前回の『RENT』の公演時にも、僕が劇場に子どもを連れて行ったりしていたので、もしかしたらトレイ(演出家のトレイ・エレット)も僕自身が父親として子どもと向き合う姿に、ジェリーとの共通点を感じてくれたのかもしれません。
作品の中で、特に心を掴まれるシーンはどこですか?
ハッピーなシーンも、ふと安心できる瞬間もたくさんあるのですが、やっぱり息子が自分のために手を差し伸べてくれるシーンが心掴まれますね。息子とのシーンは、ゆっくり呼吸しながらお芝居できそうな気がしています。
最後、ショーに出る前にジェリーは「もう俺できないよ」って諦めて楽屋に閉じこもっちゃうんですけど、そこに息子が来て「もう少しでグレートなパパだったのに」と言うんです。そこからラストのストリップショーになるのですが、最後にジェリーが登場するシーンは見どころです。あの爽快さは、観てくださる人の心が洗われる瞬間になるんじゃないかなって。
そこでは、実際にどんなパフォーマンスが繰り広げられるのでしょうか?
作品全体的には、派手なダンスシーンがあるわけでも、激しいショーの要素があるわけでもないんです。最後にステージ上でストリップをしていくのが唯一のショーのようなシーンなんですけど、決してモダンなダンスでもジャズダンスでもなく、むしろちょっとダサいんです(笑)でも、それが余計にグッとくるというか、おじさんたちが一生懸命踊っている姿に心掴まれるんですよ。着飾らない全力の脱ぎ捨て具合を、ぜひ楽しみにしていただきたいです。
人が何かを乗り越えた瞬間だったり、立ち向かう姿が僕にはグッときたので、ぜひそういう部分を感じていただけたら嬉しいです。

歳をとるほど、生徒になれなくなるから
本作は、2024年の日米合作ミュージカル『RENT』に続いて、再びトレイ・エレットさんが演出を手がけます。山本さんにとっても再タッグとなりますね。
そうなんです。実は『RENT』が終わったタイミングで、トレイから「次は何をやる?」って聞かれたところからこの企画は始まっていて。彼の方から「耕史にピッタリの作品があるよ」って言ってくれたんです。そんなふうに、「またやろうよ」って声をかけてくれたことが一番嬉しかったです。自分の中ではある意味冒険的で、『RENT』以上のトライだと思っています。
全編英語上演となりますが、現在はどのようにお稽古を進めているのでしょうか?
今は作品の土台づくりですね。『RENT』に続き、本作も全編英語上演(日本語字幕付き)なので、オンラインで台詞の読み合わせをしたり、英語の発音を直してもらったりしています。立ち稽古は7月からなので、それまでに物語の舞台となる「バッファロー」のイントネーションや癖を調整しているところです。
日本のカンパニーに海外の演出家が一人来るのと、海外のカンパニーに自分が入るのとでは全然違うんですよ。言葉も違うし、やり方も違う。でもトレイは、日本での上演であっても、いつも通りブロードウェイで作品を創る感覚で向き合っている。だから僕らも、変に遠慮せずにフラットにコミュニケーションがとれる。その心地良さがありますね。
前作『RENT』でそうした環境を経験されたことで、ご自身の中にも変化はありましたか?
そういう環境にいると、今までやってきたスキルや経験が一度ゼロになるような感覚もあります。日本での“山本耕史らしさ”みたいなものは全然なかったんじゃないかな。でも、それがすごく新鮮で良かったなと思っています。
人間って、歳をとるほど先生にはなっていくけど、習い事でもしない限りなかなか生徒にはなれなくなるんですよ。最後に生徒になる場所って言ったら、たぶん車の教習所とかね(笑)でも『RENT』の時は、本当に周りの全員が先生みたいな感じで、僕は生徒の気持ちに立ち返る瞬間がたくさんありました。
その一方で、稽古を重ねる中で、「自分も役者として積み上げてきたものがあるんだな」ということも実感できたんです。一歩動くっていうことの強さだったり、長年やってきたからこそ持てる感覚だったり。そこは自信持って良いんだなとも思いました。
また、今回ご一緒するゆりやんさん(ゆりやんレトリィバァさん)は、初めてのミュージカルで、しかもブロードウェイのクリエイターたちと英語で作品を創るわけですから本当にすごいと思います。心強いし、楽しみです。
彼女は一番最初に登場する役なので、日本のお客さんも彼女が出てきた瞬間に肩の力が抜けて、自然と作品の世界に入っていけるんじゃないかなと思います。

自分の目と体感でしか証明できない何か
幼少期から舞台に立たれている山本さんですが*1、改めて舞台ならではの魅力とはどんなところにあると思いますか?
言葉で表すのは難しいですよね...。でも映像で観る世界って、自分とは違う空気の中にあるじゃないですか。でも舞台やライブは、演じている人と同じ空気を共有できる。
しかも、舞台では物語が最初から最後まで途切れずに進んでいく。だから、ひとりの人生をまるごと体感できるんですよね。たとえば、モーツァルトの人生をテレビでダイジェストとして知るのではなく、モーツァルトが生きて、悩んで、死んでいくまでを感情と一緒に追体験できる。
あとは、残らないことの価値もあると思うんです。今は何でも皆まずスマホで撮るじゃないですか。本当は目で焼きつけた記憶があるはずなのに、今はたぶんスマホのフィルター越しの記憶の方が多くなってきているんじゃないかなと思う。
その点、舞台は基本的に撮ることができない。だからこそ、自分の目と体感でしか証明できない何かがあるんですよね、舞台って。他では味わえない体験ができる場所だと思います。
山本さんご自身の、初観劇の思い出はありますか?
僕は観るより先にやっちゃってるんで(笑)
子どもの頃から舞台に立っていたので、客席から観た舞台の記憶は、ダブルキャストの相手の芝居を観たのが最初ですね。
『レ・ミゼラブル』*2の時に初めて客席から芝居を観て、感動というよりもすごく物理的に観ていましたね(笑)「こう演じるとこういう風に見えるんだ」って。そのあとは、『スタンドバイミー』*3の時に、当時の新之助*4がダブルキャストで、彼が演じているのを客席から観ていた記憶も深いです。
だから、ちょっと珍しい観劇の思い出かもしれないですね。
最後に、本作を楽しみにしている方へ、メッセージをお願いします。
この作品には、一歩踏み出す爽快さがあります。観てくださる方が、今までの自分を脱ぎ捨てるように楽しんでもらえたら嬉しいです。
プロフィール

■スタイリスト
笠井 時夢(TOM KASAI)
■ヘアメイク
西岡 和彦(KAZUHIKO NISHIOKA)
山本 耕史(やまもと こうじ)
1976年10⽉31⽇⽣まれ。東京都出⾝。0歳から芸能活動を開始し、1987年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のガブローシュ役で本格的に活動を開始。ドラマ『ひとつ屋根の下・2』(93、97年)NHK連続テレビ⼩説『春よ来い』(95年)などに出演。
1998年、ブロードウェイミュージカル『RENT』⽇本語版初演にて、マーク役を演じる。翌年1999年の再演にも同役で出演。2003年、2006年、2012年には『RENT』の原作者ジョナサン・ラーソンの⽣涯を綴った Off Broadway Musical『tick,tick...BOOM!』に主演のジョナサン役で出演。2012年には演出、翻訳、訳詞、振付も担当した。
04年『第42回ギャラクシー奨励賞』05年『第29回エランドール賞』新⼈賞、15年、舞台『メンフィス』で『第23回読売演劇⼤賞』優秀男優賞などを受賞。
近年の出演作にはドラマ『きのう何⾷べた︖』シリーズ(19、20、23年)、NHK⼤河ドラマ『鎌倉殿の13⼈』(22年)、映画『シン・ウルトラマン』(22年)、舞台『浅草キッド』(23年)、ドラマ『ハヤブサ消防団』(23年)、映画『キングダム 運命の炎』(23年)、『不適切にもほどがある︕』(24、25年)、『花咲舞が黙ってない』(24年)、『地面師たち』(24年)などに出演。26年10月~『俺たちの箱根駅伝』に出演。
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■取材・文:境 悠
■写真:すずき もえ
公演情報
| 公演名 |
日米合作ブロードウェイミュージカル『フル・モンティ』
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日程・会場 ▶︎お問い合わせ |
【東京公演】
2026年8月19日(水)~9月7日(月)
東京国際フォーラム ホールC
▶︎キョードー東京
0570-550-799 (平日11:00~18:00/土日祝10:00~18:00)
【大阪公演】
2026年9月10日(日)~9月14日(月)
新歌舞伎座
▶︎︎キョードーインフォメーション
0570-200-799 (祝日を除く月〜金曜日 12:00〜17:00)
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| Webサイト |
https://fullmonty2026.jp
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