「観客は励まし合える味方」俳優の言葉と観客の想像力で作り上げる一人芝居(『ガールズ&ボーイズ』出演:真飛聖さん、増岡裕子さん)

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2026年4月に新国立劇場で上演される『ガールズ&ボーイズ』。ミュージカル『マチルダ』の脚本などで知られる、イギリスの劇作家デニス・ケリーの傑作一人芝居が日本初演を迎えます。ある女性が観客に語りかける形で、彼女の幸福な人生とその崩壊を描いた本作。今回、ただ一人の登場人物「わたし」をダブルキャストで務める真飛聖さん、増岡裕子さんにインタビューを実施!一人芝居に初めて挑戦するお二人に、舞台鑑賞初心者にもおすすめしたい本作の楽しみ方や舞台の魅力などのお話を伺いました。

『ガールズ&ボーイズ』あらすじ

人生、どうすればいいか分かんなくなった。
このままじゃだめだって思って。
だから、一人で旅に出たの。
そしたら、イタリアの空港で彼に出会った。まるで映画みたいに。
恋に落ちて、結婚して、二人の子どもも生まれて、仕事だって順調で......
すべてがうまく転がっていく気がしてた。
だけど、ほんのちょっとしたことで、少しずつズレ始めて。
気づいたときには――もう戻れない場所にいた。
これは、そんな「わたし」の話。
(公式HPより:https://www.nntt.jac.go.jp/play/girls_and_boys/

観客の想像力で登場人物が現れる

まずは、お二人とも台本をお読みになった際の、作品の第一印象をお聞かせください。

増岡さん:私は今回オーディションで出演が決まったんですが、オーディションの第一審査の時は、台本の一番最初のシーンだけ渡されていたんです。主人公の「わたし」が空港で夫と初めて出会うシーンなんですが、そこだけ読んでコミカルな台詞も多くて面白い話なんだなと思っていて。オーディションが進み、いざ最終審査の前に台本全編をいただいたら「え?こういう結末?」という結構などんでん返しがあり…。いきなり引きずり込まれたような気持ちになって、恐ろしいというか、すごい戯曲だと思いました。

「わたし」に対しては、共感できるところが多かったです。主人公の「わたし」には子どもが2人いるんですが、自分自身も今4歳の娘を育てているので、育児とキャリアのバランスで悩むことがあり、「分かる、分かる」と共感するシーンがたくさんで。

真飛さん:私は台本を読んだときに直感的に「やる!」って思ったんです。いつもは自分が演じる役に重点を置いて読むというよりも、物語を知ろうと思ってフラットな状態で読むんです。でも今回は読んでいると自分がこの物語の中で生きている感覚になっていって「私はこの役をやることになるんだな」と直感しました。私は、結婚していなくて子どももいないので、増岡さんの抱いた「共感」とはまた違うと思うのですが、物語の中で時を過ごしている自分を自然に想像できましたね

お話を伺って、「わたし」との距離感がお二人それぞれ違うように感じました。

真飛さん:そうですね。だから私たちそれぞれのバージョンで、お客様に見えてくるものも全然違うと思います。舞台上には「わたし」しかいないけれど、時間が経つうちにどんどん他の登場人物の姿が現れてくると思うんです。「わたし」の台詞から、観ている方が想像を働かせて、夫や子どもたちの顔を思い浮かべていく。「わたし」の娘の姿も、増岡さんの時はロングヘアの女の子に見えたけど、私の時にはショートカットに見えたり。それぞれ全然違う人物が見えるはずなので、そこも楽しんでほしいですね。

増岡さん:想像力を働かせて観るのも、演劇の醍醐味ですよね。

真飛さん:私たちの発する言葉でお客様の想像力を膨らませて、そこに生きた人物をちゃんと浮かび上がらせたいですね。

観客との間の鉄壁を外す

今回、お二人は初めて一人芝居に挑戦されます。出演者同士で舞台を作っていく場合と比べて、俳優と観客の関係性がより重要になるイメージがありますがいかがでしょうか?

真飛さん:今回の舞台は、お客様に向かって問いかけるような台詞もありますし、どんどん巻き込んでいきたいです。(演出の)稲葉賀恵さんから「劇場をカウンセリングルームのような空間に」というイメージを伺ったんです。私たちも観客の皆さんも何か話したいことがあって集まった人たち。そこで順番に自分自身に起きた出来事を話していっている中で、たまたま「わたし」が話す順番が来た、という。そういう空間を作れたら、お客様も「あ、これ私に言ってるんだ」と思って、こちらの言葉に頷いたり、自然にリアクションできるんじゃないかと思っています。私はお客様のことを味方だと思っているので、同じ空間に集まった人と人同士、エネルギーの交換をして一緒に作っていきたいです。

増岡さん:「お客さんは味方」!書いておこう、心に!

真飛さん:そうですね!わざわざチケットを購入して劇場まで足を運んでくださる時点できっと味方ですよね。皆さん興味を持って、何かを感じてみたいと思ってきてくださるのだから、巻き込んでいきましょうよ。と勝手に思ってるけど、実際稽古が始まったらどうなるか(笑)

増岡さん:稲葉さん次第ですね(笑)

真飛さん:増岡さんはオーディションの過程で、役についてもたくさん話をしたと稲葉さんから伺っているんですけど、どうですか?

増岡さん:お客様との距離感という点では、私と稲葉さんでイメージしていたものが違ったみたいです。オーディションの第一審査でやった最初のほうの場面は「お客さんに負けないぞ!」という意気込みで作り込んでいったんです。そしたら「その鉄壁を外してください」と言われて(笑)もっと生(なま)っぽい揺らぎや危うさを感じるようにしてみたら、どんな感じになりますか?というオーダーがありました。

あとは「この状況をなんとかしたいと頑張っている女性でいてほしい」という話を伺って、なるほどと思いました。結末を知っていると、どうしても悲観的に演じてしまいそうな物語ですが、おそらく全く違う感じの演出になると思います。

真飛さん:悲しいだけではなくて、観ている人が「私も頑張ろう!」と思えるといいですよね。人は挫折したり悲しいことがあったりしても、前に進んで生きていかなきゃいけないですから。もちろんフィクションなんだけれど、誰かの気持ちに寄り添えたり勇気になったり、ノンフィクションに近い真実味を感じられるのも、演劇の醍醐味だと思っています。私たちと観客の皆さん、みんなで「頑張ろう!」って肩を叩いて励まし合うような舞台にしたいですね。

合理的な時代だからこそ非効率が魅力的

「演劇の醍醐味」というお話もありましたが、お二人の考える舞台の魅力について教えていただけますか?

増岡さん:舞台の魅力は、やはり“生”ということだと思います。この合理的な時代に、たくさんの人が集まって時間をかけて、言ってしまえばとても非効率なことをやっている。映像で撮ってしまえばクオリティが高いものを何度も観られるんですが、舞台の「その時その場でしか共有できない」というのが、今の世の中ではとてもスペシャルな気がするんです。例えば、舞台を観に行った時に、台詞が飛んでしまった瞬間の空気が私は大好きで(笑)

真飛さん:うわー、私はなかなか面白がれないかも(笑)

増岡さん:自分が舞台に立っていたら、もう消えてしまいたいと思うんですけど(笑)客席にいるときは、あの張りつめた空気が大好きなんですよ。そんなアクシデントも含めて、その時だけしか観られないのが舞台の魅力だと思います。

真飛さん:そうですね。舞台って「同じことを何度もやって飽きないの?」なんて言われることもあるんですが、一度たりとも同じ仕上がりになることはありえないんです。ストーリーや台詞は一緒でも、その日の役者のコンディションだったり、お客様の温度感だったり、色々なことで変化します。

人って色々な事情を抱えながらも、自分の機嫌は自分で保って生きていかないといけなくて。それはお客様も一緒ですよね。その時の自分の状態によって、同じお芝居でも受け止め方が変わって、涙が出ちゃったり逆に笑っちゃったりすると思うんです。そんな自分のことを面白がりに劇場に来てほしいなと思います。

お二人が初めて舞台を観たときのことは覚えていらっしゃいますか?

増岡さん:私はお笑いが大好きで、初めて生で観た舞台は「吉本新喜劇」でした。東京の天王洲アイルにある劇場(銀河劇場)での公演を、小学校6年生の時に家族で観に行ったんです。テレビでは観ていたんですが、放送時間の都合でカットされてしまう部分まで全部観られて、発見がたくさんありましたし、観客の笑い声とか歓声とか、リアクションに合わせて今まさに(芝居を)変えているのが伝わってきて「生のお芝居ってすごい!」と思いました。「辻本茂雄さん*1が生きてる!」って感動しました(笑)

真飛さん:それがきっかけで「舞台でお芝居やりたい!」と思ったの?

増岡さん:思いました!「演劇部に入る!」って。

真飛さん:コントをやろうとは思わなかったんだね(笑)

増岡さん:そうなんですよね(笑)真飛さんはどうですか?

真飛さん:私は3歳の頃からクラシックバレエをやっていたので、初めて生の舞台を観たのはバレエだったんじゃないかと…。友人が「宝塚に入りなよ」と勧めてくれたのをきっかけに、高校生の時に宝塚に入ったんですが、実は舞台を初めて観たのは、宝塚の受験を決めたあとのタイミングだったんです。舞台上で喋って歌って踊って…という全く観たことのなかった世界に圧倒されて「(入るって言ったけど)無理じゃん!」と思いました。「なんで入るなんて言っちゃったんだろう…」と帰りの電車で少し泣いた記憶があります。そのあと二度目の試験で合格できました。一度試験に落ちてしまったからこそ本気になれたんだと思います。最初は勢いで言ってしまったけれど、人生を変えるきっかけになりましたね。

お二人とも人生を変える経験になったんですね!最後に、本作を観劇されるお客様にメッセージをお願いします。

真飛さん:私たちとお客様との距離感をあまり感じない空間にしたいと思っているので、身構えずに面白がりに来てほしいですね。喜劇だとか悲劇だとか、一言では言い表せない内容ですし、人によって捉え方も違うと思うけれど、この物語の時間を一緒に歩んでほしいなと思います。

増岡さん:真飛さんの言った通りなんですが、身構えずに来ていただきたいです。語る私と聴いてくれる誰かがいないと、全く成立しない話なので、一緒に良い時間を過ごしましょう。カフェに一緒に行って「私の話を聴いてくれる?」くらいのテンションでいますので、お客様もそれくらい気軽に来ていただけたら嬉しいです。

プロフィール

■真飛聖さん
ヘアメイク:藤原リカ(ThreePEACE)
スタイリスト:ゴウダアツコ

真飛 聖(まとぶ せい)

1995年、宝塚歌劇団に入団し、2007年に花組トップスターに就任。11年に宝塚歌劇団を退団後は、舞台・映画・ドラマなど多岐に渡り活躍している。これまでの主な出演に、映画『レンタル・ファミリー』『52ヘルツのクジラたち』『マッチング』『ミッドナイトスワン』『娼年』、ドラマ『身代金は誘拐です』『DOPE 麻薬取締部特捜課』『怪物』『情事と事情』、舞台『多重露光』『雪やこんこん』『グッドバイ』など。

増岡 裕子(ますおか ゆうこ)

2007年、文学座付属演劇研究所入所。2012年に座員となり、現在に至る。 これまでの主な出演に、映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』、ドラマ、連続テレビ小説『あんぱん』『19番目のカルテ』、吹き替えに、映画『リロ&スティッチ』『アナと雪の女王』、ドラマ『涙の女王』『アストリッドとラファエル』など。そのほか、ラジオドラマやWEBショートドラマへの出演なども多数。近年の主な舞台は『オセロー』『マニラ瑞穂記』『美しきものの伝説』『Don't stop me now!』『スリーウィンターズ』など。

■取材・文・写真:すずき もえ

公演情報

公演名 ガールズ&ボーイズ
日程 2026年4月9日(木)~4月26日(日)
会場 新国立劇場 小劇場
Webサイト https://www.nntt.jac.go.jp/play/girls_and_boys/
お問い合わせ 新国立劇場ボックスオフィス
03-5352-9999(10:00~18:00/休館日を除き年中無休)

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*1:吉本新喜劇の座長を1999-2019年に渡って務めた。現在もベテラン座員として活動中