「見てはいけないものを見る体験が面白い」幽霊の姿を通して自分自身を観る(『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』作・演出:岡田利規さん/出演:小栗基裕さん(s**t kingz))

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2026年2月よりKAAT神奈川芸術劇場で上演されるKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』。本作は、世界最古の舞台芸術と言われる「能」の形式を用いた音楽劇。能をまだ観たことがない方にもおすすめしたい一作となっています。今回、作・演出を務める岡田利規さんと「円山町」に出演する小栗基裕さん(s**t kingz)にインタビューを実施!舞台鑑賞初心者の方向けに作品の紹介や、お二人の考える生の舞台の魅力などを伺いました。

『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』について

「珊瑚」と「円山町」の二本立てで上演される『未練の幽霊と怪物』。日本の古典芸能である「能」の構造を借りて、現代社会の犠牲となった存在を描き出した作品です。実際の能の登場人物構成と同じく、主役である「シテ」、シテの相手役となる「ワキ」、物語の前半・後半の間に登場し状況説明を担う「アイ」などが登場し、彼らの語りで物語は進みます。シテとなるのは未練を残し成仏できずにいる幽霊たち。言葉とダンス、歌、音楽が融合し、現実と死者の世界が交錯する幻想的な世界へと観客を誘います。

「能」の構造を借りて社会問題を感情的体験に

まずは岡田さんから作品についてご紹介いただけますか?

岡田さん:この作品は、能の中でも「夢幻能」といわれる物語の形式を参考にして作っています。夢幻能の主人公は、幽霊とか精霊とか霊的な存在です。幽霊、つまり死者が登場して、自分の死の背景にあったものや自身の想いについて語るという形式になっています。幽霊自身が自分の経験として語ることで、物語性が増して観客にとってより共感や感情移入がしやすくなっているのだと思います。

今回の作品に登場する幽霊は、社会的な問題が直接の原因や背景となって亡くなっていますが、社会問題を頭で勉強するのではなく、もっと感情的に体験できるようにしたいと考えた時に、この夢幻能の形式がぴったりだと思ったんです。

今回は「珊瑚」と「円山町」という2つの演目をやりますが、「珊瑚」は沖縄の辺野古を舞台としており、珊瑚の霊が「シテ(能の主人公のこと)」として登場します。もうひとつの演目「円山町」は、東京の渋谷にある円山町という町でかつて起きた出来事について扱っています。小栗さんが演じてくれるのは、こちらのシテ。ひとつは「女性の霊」です。

役を自分の外側に着るイメージで演じる

すでに稽古が始まっていると伺っていますが、小栗さんは「女性の霊」を演じてみていかがですか?

小栗さん:様々な俳優さんが舞台で女性役を演じているのを観て「自分だったらどうするだろう」と想像することはあったんですが、今回は思い描いていたものとは全く違いました。確かに女性の役ではあるんですが、身も心も女性になりきって演じるということではなく、“女性というキャラクター”を表現する存在なのかなという気がしています。「ある女性の霊」という着ぐるみのようなものを自分の外側につけているイメージなんですが、中身はあまり詰め込もうとしないほうがよさそうだと思っています。

演じるというと内面から作っていくイメージがありますが、外側に着る感覚なのですね。

小栗さん:そうなんです。岡田さんからも稽古中に「内側から作ろうとするよりも、外側からアプローチした方が何か生まれるかもしれない」と言っていただきました。

岡田さん:このアプローチの仕方も能を元にしているからなんです。能の登場人物は鏡のような存在だと思っていて。多くの演劇では、観客は舞台上で行われていることを観ますが、能の場合では、観客は舞台を観るという体験を通して自分の中に生まれるものと向き合うんです。登場人物は鏡に過ぎなくて、そこに映るのは観客自身、ということですね。

能の舞台って奥に松の絵が描かれているんですが、その松のことを「鏡の松」*1というんです。鏡は能の世界を表すキーワードなんだと思います。特に今回の「円山町」では、小栗さん演じる「女性の霊」が鏡の役割をしているというのを強く感じてもらえると思います。鏡って自分を見るものなので、そこに見えるものは観客によって違うんです。

…難しい話をしているようですが、この舞台は楽しいですよ。僕が作る作品は難しいと言われるものが多いんですけど、今回は音楽があって、歌があって、ダンスがある。これだけでも楽しそうでしょう?分かりやすい見ごたえがある舞台になっています。

小栗さんも演じる側として楽しさを感じていらっしゃいますか?

小栗さん:楽しいですよ!空っぽになった自分の中に何かを発見する楽しさがあると感じています。探そう探そうとして搔き分けてというよりは、どんどん部屋の中から物を取り除いていって壁が見えたら「こんなところにコンセントあったんだ!」と驚くような(笑)この作業をできる場を岡田さんが作ってくださっているので、安心して飛び込んでいっています。もちろん今までの経験があるからこそできることもありますが、自分の持っているものを信じた上で、頼りすぎないようにできたらと思っています。

舞台には「見てはいけないものを見る」面白さがある

お二人の感じている生の舞台を観ることの魅力をお伺いできますか?

小栗さん:五感で受け取るものともまた違う、「振動」を受け取れることだと思います。僕はダンサーなので音楽に乗って踊ることが多いんですけど、人の動きや声、音楽から伝わる振動がすごく大事だと思っていて。「バイブス高め」って言うじゃないですか。そのバイブスって「バイブレーション」=「振動」からきている言葉ですけど、そういう意味で、演劇ってバイブス高めだなと思います。

岡田さん:劇場という場所で他の観客と一緒に体験するのが舞台の特徴であり、魅力だと思っています。フィクションが語られる形式って、舞台に限らず、映画や本や漫画と色々ありますよね。それぞれに楽しい体験ですが、舞台ならではだと思うのは「フィクションが語られているその場で体験できる」ということです。さらに、それを他の大勢の観客と一緒に観るのが重要だと思っています。

多くの人たちと一緒にフィクションを観るという体験を今その場でしている…。とても特殊で不思議な状況だなと思うんですが、それがどんなに面白いことかってなかなか言葉で表現しづらいんですよね。「舞台をまだ観たことがないけど気になる」という方も多いと思うんですが、そもそもなぜ人は舞台を「観たい」と思うんでしょう。「観たい」と思う何かがあるわけですよね。そこに舞台の魅力というか、本質があると思うんです。

小栗さん:何を観たいと思っているのか…。今お話聴きながら考えていたんですが、普段見られないもの、見てはいけないものを見られる楽しさっていうのはあるのかなと思います。普通に生きていて、見えてないものってたくさんあるじゃないですか。例えば、今話している相手のプライベートのこととか、この人と喧嘩したらどういう感じになるんだろうとか、なかなか分からないし、見ないほうがいいこともありますよね。でも、本当はちょっと見てみたいという思いは、みんな持っていると思うんです。

もし道端で泣き叫んでいる人がいたら、気にはなるけどあんまり見ないほうがいいかなと思って目を逸らしたりする。でも舞台だったら、観客としてそういう人を容赦なく凝視できる。「見てはいけないものを見る」という擬似体験ができる面白さがあるのかなと思います。

岡田さん:なるほど。あと僕は決められた場所や時間に合わせて行く、というある種の拘束をされたいのもありますね。そういうのは僕だけじゃないと思うんですが。映画でも配信で観ると他のことをしたくなって止めちゃったりするので、集中せざるを得ない時間が欲しいんですよね。

小栗さん:それくらい拘束力あるほうが、ちゃんと最後まで観ようとできるからいいですよね(笑)

最後に、本作を観てみたいと思っているお客様に向けて、メッセージを一言ずつお願いします。

小栗さん:僕自身、今回の作品を通して能というものを知ったり、舞台上で人間が起こせることの可能性や奥深さを味わったりしているので、お客様にもまた新たな世界を観ていただける作品になると思います。「今のはなんだったんだろう!?」と思うような、すごく面白くて不思議な体験ができるので、ぜひそれを楽しみに来てほしいです。

岡田さん:能は大昔から日本にある芸能ですが、鑑賞するにはやはり多少学んでいないと難しいところもあります。今回の作品は、現代的に分かりやすくしていますが、率直な言い方をすると「能をパクっている」だけなんです。でも、それによってすごく感覚的に楽しい舞台になっています。フィクションの体験の仕方としても新鮮に感じていただけると思います。不思議で新しい体験をしに来てください。

www.youtube.com

プロフィール

■小栗基裕さん
ヘアメイク:杉野智行

岡田 利規(おかだ としき)

演劇作家、小説家、演劇カンパニー「チェルフィッチュ」主宰。その手法における言葉と身体の独特な関係が注目される。2007年『三月の5日間』でブリュッセルの国際舞台芸術祭、クンステン・フェスティバル・デザールに参加。この初の海外公演以降、国内のみならず、アジア・欧州・北米・南米あわせて90都市以上で作品を上演し続けている。2016年からはドイツの公立劇場レパートリー作品の作・演出も継続的に務める。2020年『掃除機』(ミュンヘン・カンマーシュピーレ)および2022年『ドーナ(ッ)ツ』(ハンブルク、タリア劇場)でベルリン演劇祭(ドイツ語圏演劇の年間における“注目すべき10作”)に選出。タイの現代小説をタイの俳優たちと舞台化した『プラータナー:憑依のポートレート』で第27回読売演劇大賞・選考委員特別賞を受賞。能のナラティヴの構造を用いた『未練の幽霊と怪物 挫波/敦賀』(KAAT神奈川芸術劇場)で第72回読売文学賞・戯曲・シナリオ賞及び第25回鶴屋南北賞受賞。2021年には『夕鶴』(全国共同制作オペラ)で歌劇の演出を手がけた。小説家としては、2007年に『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(新潮社)を刊行。第2回大江健三郎賞受賞。2022年に『ブロッコリー・レボリューション』(新潮社)で第35回三島由紀夫賞および第64回熊日文学賞を受賞。

小栗 基裕(おぐり もとひろ)(s**t kingz)

アメリカ最大のダンスコンテスト「BODY ROCK」で2年連続優勝。23年10月25日にはダンサー初の単独武道館ライブを即完売させた、日本を代表する世界的ダンスパフォーマンスグループ s**t kingz のメンバー。ジャズ・タップ・ヒップホップなど幅の広い表現力が見るものを惹きつけるグルーヴが魅力。三浦大知・King & Prince などをはじめ、グループとしては国内外アーティストの振付を500曲以上手掛け、エンターテインメントシーンの最先端で活躍し続けている。近年の主な出演作に、【ドラマ】「アンチヒーロー」「ブギウギ」、【映画】「孤狼の血 LEVEL2」、【舞台】『球体の球体』、劇団papercraft『空夢』、『ある都市の死』など。4月29日より始まる舞台「春琴抄」への出演を控えている。

公演情報

公演名 KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』
日程・会場
▶︎お問い合わせ
【神奈川公演】
2026年2月13日(金)~2026年3月1日(日)
KAAT神奈川芸術劇場 <大スタジオ>
▶︎チケットかながわ
0570-015-415(10:00~18:00、年末年始を除く)

【兵庫公演】
2026年3月7日(土)、8日(日)
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
▶︎芸術文化センターチケットオフィス
0798-68-0255

【新潟公演】
2026年3月15日(日)
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
▶︎りゅーとぴあチケット専用ダイヤル
025-224-5521(11:00~19:00/休館日除く)

【京都公演】
2026年3月21日(土)、22日(日)
ロームシアター京都 サウスホール
▶︎ロームシアター京都チケットカウンター
075-746-3201
Webサイト https://www.kaat.jp/d/miren2026

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*1:能舞台の正面奥に位置する板を「鏡板」、そこに描かれている松を「鏡の松」という