「歌舞伎は観客参加型エンターテインメント」ヒロイン登場で新たな風が吹くルパン歌舞伎シリーズ第2弾(『流白浪燦星 碧翠の麗城』歌舞伎俳優:片岡愛之助さん、中村米吉さん)

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2026年3月に新橋演舞場(東京)で幕を開け、御園座(名古屋)、南座(京都)、博多座(福岡)と全国4都市を巡るロングラン公演となる第2弾新作『流白浪燦星(ルパン三世) 碧翠の麗城(へきすいのれいじょう)』。2023年に上演され好評を博した新作歌舞伎『流白浪燦星』待望の第2弾となる本作で、流白浪燦星と石川五ェ門の二役を勤める片岡愛之助さん、瀬織姫(せおりひめ)役を勤める中村米吉さんにインタビューを実施!歌舞伎の世界への入口におすすめの本作についてのお話、舞台鑑賞初心者に知ってほしい歌舞伎の魅力など、たっぷり伺いました。

『流白浪燦星 碧翠の麗城』あらすじ

時は封建時代。諏訪の太守、春宮家の息女・瀬織姫(せおりひめ)は鎌倉初瀬寺で静かな日々を送っていたが、父の死により、お家存続のため執権の弾正と無理やり結婚させられることに。そこへ、寺にがっぽり貯め込まれた金を盗みに流白浪燦星がやってきて、二人は出会う。自由を夢見ていた深窓の姫に、流白浪という風が吹いたとき、幻の古城に秘められたお宝を巡る冒険が始まる。流白浪と姫、淡く通ってゆく二人の想いは、それぞれの定めの狭間で揺れ動く。流白浪と姫、次元、五ェ門、不二子が大敵の弾正と宝を争い、銭形がそれを追う。歌舞伎とルパン三世の“ヒロイン物語”が今、幕を明ける。 (公式HPより:https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/953/

二役を歌舞伎ならではの手法で演じ分ける

愛之助さんは、新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』の1作目から流白浪燦星役を勤められていますが、2作目となる今回どのような作品にしていきたいと考えていますか?

愛之助さん:やはり原作があるものなので、原作ファンの方にがっかりされず楽しんでいただけること、そして普段歌舞伎をご覧になる方にも納得していただけて、歌舞伎をまだ観たことのない方にも楽しんでいただける—この3つが揃った作品にしたいと思っています。これは狭い針の穴を通すような難しいことだと感じています。1作目も手探りのまま皆で知恵を出し合いながら作り上げていったので、できあがった舞台を観てお客様が喜んでくださったのがとてもありがたかったです。

ルパン三世というキャラクターは多くの方がご存じで、皆さんがイメージする「ルパン像」があると思うんですね。女好きで軽々しく見えるけど実は紳士。どんなに裏切られても結局は一途に不二子ちゃんを追いかけている…というようなルパン三世の「お約束」は歌舞伎になっても活かしたいところです。

一方、たとえ登場人物が「ルパン三世」でなかったとしても、物語としてきちんと成立することも重要ではないかと。そうでないと歌舞伎として、お客様が納得できる仕上がりにならないと思っています。今回の第2弾では、前作から続けて出演される方に加え、ヒロインの瀬織姫(せおりひめ)に米吉さんを新たに迎えます。流白浪と瀬織姫の心情をしっかり描いて、より深みを増した作品にしたいですね

今回、愛之助さんは流白浪燦星だけでなく石川五ェ門も演じられるのですね。

愛之助さん:そうなんです。1作目では尾上松也くん、尾上右近くんが石川五ェ門役を勤めました。*1前回は五ェ門の出番がたくさんあったのですが、今回は出番がそれほど多くないということもあり、二役させていただくことになりました。

一人の役者が二役を早替りで演じ分けるといった外連味(けれんみ)*2のある演出は、歌舞伎の醍醐味のひとつでもあります。実は、同じ場面に流白浪と五ェ門が同時に出るシーンもあり…。一体どうやるのかは観てのお楽しみ。ぜひ劇場で体験していただきたいですね。

ルパン歌舞伎に新しい風を吹かせるヒロイン

米吉さんは今回から参加されますが、ご出演にあたってのお気持ちはいかがでしょうか?

米吉さん:1作目がとても人気だったと聞いています。その第2弾なので、難しいものになるのではないでしょうか。前作をご覧になったお客様のハードルは上がっていますから、それを超える良いものを作らないといけません。その中で、新しいキャラクターとして参加させていただくので、責任重大だと思っています。

私が演じる瀬織姫は、流白浪燦星の一味が狙う宝と密接な関わりがあるお姫様です。スペクタクルな冒険活劇になりそうですが、皆さんがイメージされるルパン三世らしいストーリー展開であることには変わりないので、歌舞伎を観たことのないお客様にも楽しんでいただけると思います。

愛之助さん:米吉さんが来てくださって鬼に金棒ですよ。女方の中でも際立って美しく可愛らしいと言われている方ですから。古典歌舞伎でのご活躍はもちろん、新作歌舞伎も色々と経験されているので安心感がありますね。それだけに良いものを作らなければいけないなという…なんだか、ハードルを自ら上げてしまっているようですが(笑)

米吉さん:そう言ってくださってありがたいです!前作の上演を拝見したのですが、チーム感がしっかりできていらっしゃって。その中に入っていくのは少し不安もありつつ、僕が加わることで新しい風を吹かせることができればと思っています。

男でも女でもない「女方」という生き物

歌舞伎の大きな特徴といえば、「女方」をイメージする人も多いかと思います。

米吉さん:そうですね。今や男性が女性役を演じるのが決まり事になっている演劇も、歌舞伎くらいしかないのかもしれません。歌舞伎ならではの大きな魅力のひとつとして、大事にしていかなくてはと思っています。私自身はすっかり女方をさせていただくことが多くなったので、逆に立役*3の方が構えてしまうくらいなんですけど(笑)

私は歌舞伎の女方というのは、男でも女でもない「女方」という別の生き物だと感じています。女方は歌舞伎の美しさを集約した存在なので、いかにお客様に美しいと思っていただけるかが重要です。そのために、女性の真似をすればよいということでもないし、女性らしくしなくてよいわけでもないし…。

愛之助さん:僕らは女方を勤めるとき「女優になってはいけない」というんです。女方であって女優ではない。これが難しいんですよね。

米吉さん:昔言われましたよ。「お前のはまだ女優でもない『女(じょ)』だ」って(笑)「優れてもない」って怒られたことがありました。今も勉強の最中ですが、歌舞伎という芸能の骨格を自分の内に持ちながら、女として舞台に出て、さらに演技をするっていう三層構造の中に女方の本質のようなものが見えてくるんじゃないかなと思っています。

歌舞伎は感覚的に楽しめるエンターテインメント

お二人の考える歌舞伎の魅力を教えていただけますか?

愛之助さん:現代劇との違いがたくさんあって面白いと感じていただけると思います。例えば、衣裳は普段見ることのないような豪華な作りの着物なので、見ているだけで楽しいと思います。「隈取」という化粧も特徴的ですね。顔の血管や筋肉を表現していて、色や形でその登場人物がどんな人か分かるようになっています。大まかにですが、赤色だと正義の味方、青色だと悪い人、茶色は幽霊や化け物…というような。まずはそういった分かりやすい歌舞伎らしさを楽しんでいただけたらと思います。

歌舞伎を観るというと「勉強しに行く」という心構えでいらっしゃる方も多いかもしれませんが、かしこまらずに、面白かったら笑って、悲しかったら泣いて、良いと思ったら拍手して、お客様にも一緒に参加していただきたいです。歌舞伎には「大向こう」*4がありますので、よかったら声をかけてください!基本的には「大向こう」を専門にされている方がするものなので難しいかもしれませんが、『流白浪燦星』においてはチャレンジしていただいてもいいんじゃないかと。それくらい観客の皆さんにも参加型で楽しんでいただきたいと思っています。僕の場合は「ラブリン!」(片岡愛之助さんの愛称)と声をかけていただくこともありますよ(笑)

米吉さん:大向こうはハードルが高いと思うんですが(笑)僕も愛之助さんがおっしゃったように、歌舞伎って難しく考えず感覚的に味わっていただけるものだと思っています。舞台美術や大道具もとても立派ですし、三味線と「鳴物」と呼ばれる鼓や笛など、普段あまり生で聴くことのない和楽器の演奏もあります。台詞も普通に喋るところもあれば「乗地(のりじ)」といって三味線の音に乗って歌うように喋るところもあったり…目で見て耳で聞いて楽しいところがたくさんあります。歌舞伎はエンターテインメントですから、構えず楽しんでいただきたいですね。

愛之助さん:もしチケット代が高いなと思ったら、まずは3階席などの一番お安い席で観てみてください。舞台は色々な角度や位置から観られるのも魅力です。舞台に近い席だと飛び散る汗まで見えて臨場感が味わえますが、立廻り*5は舞台全体を見渡せる2階、3階席のほうがきれいに見えると思います。どの席もそれぞれの良さがあります。だから何回も観に来てくださる方もいらっしゃるんですよね。

米吉さん:映像配信があったりテレビ放送があったり、手軽に歌舞伎を観ていただける機会が増えたのは嬉しいですが、やはり生だからこそ体験できることもありますよね。今回は愛之助さんが「宙乗り」*6をされるんですが、飛んでいる高さは劇場でないと実感できないものだと思います。2階席や3階席のお客様は役者が近くまで飛んで来るので、その迫力も味わっていただきたいですね。

最後に本作を観劇されるお客様に向けてメッセージをお願いします!

愛之助さん:まだ歌舞伎を観たことがない方にも入口として最適な作品なので、「どんな世界が広がっているんだろう?」と一度観に来ていただきたいです。舞台は生きているので千穐楽まで日々変化していきます。特に今回のような新作だと公演が始まってからも「もうちょっとこうしてみよう」ということがよくあるので、何度か観ていただくと変わっていく部分を発見する楽しさも味わっていただけると思います。

米吉さん:僕たちもお客様もコロナ禍を通じて大変な時を過ごしました。それでもまた劇場に足を運んでくださるお客様がいるのはとてもありがたいことですし、やはり生の舞台の良さというものをお客様は求めてくださっているんだとも感じています。普段舞台に出演している僕たちも、他のお芝居やオーケストラなど生で観ると「こんなにすごいんだ」と感じることがたくさんあります。お客様にもぜひその感動を体感しに劇場へお越しいただきたいです。

www.youtube.com

プロフィール

■片岡愛之助さん
 メイク:青木満寿子 ヘア:山崎潤子
 スタイリスト:九(Yolken)

■中村米吉さん
 ヘアメイク:北 一騎(Permanent)
 スタイリスト:稲葉江梨

片岡 愛之助(かたおか あいのすけ)六代目/屋号:松嶋屋

1972年3月4日生まれ。1981年12月、十三代目片岡仁左衛門の部屋子となり、南座『勧進帳』の太刀持で片岡千代丸を名のり初舞台。1992年1月、二代目片岡秀太郎の養子となり、大阪・中座『勧進帳』の駿河次郎ほかで六代目として片岡愛之助を襲名。1994年名題昇進。2008年12月上方舞・楳茂都(うめもと)流の四代目家元を継承し、三代目として楳茂都扇性(せんしょう)を襲名。

中村 米吉(なかむら よねきち)五代目/屋号:播磨屋

1993年3月8日生まれ。中村歌六の長男。2000年7月歌舞伎座『宇和島騒動』の武右衛門倅(せがれ)武之助で五代目中村米吉を襲名し初舞台。2015年1月浅草公会堂『一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)奥殿』の常盤御前ほかで名題昇進。

公演情報

公演名 流白浪燦星 碧翠の麗城
日程・会場
▶︎お問い合わせ
【東京公演】
2026年3月5日(木)~27日(金)
新橋演舞場
▶︎新橋演舞場 03-3541-2600

【名古屋公演】
2026年4月3日(金)~26日(日)
御園座
▶︎御園座営業部 052-222-8222(10:00〜18:00)

【京都公演】
2026年9月2日(水)~26日(土)
南座
▶︎南座 075-561-1155

【福岡公演】
2027年2月6日(土)~26日(金)
博多座
▶︎博多座電話予約センター 092-263-5555
Webサイト https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/953/

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subscription.recri.jp

*1:2023年の新橋演舞場公演では尾上松也さん、2025年の南座公演では尾上右近さん

*2:大道具や小道具の仕掛けをつかって、観客の意表をついたり驚かせるような演出のこと

*3:歌舞伎における男性の役、または男役を演じる役者のこと

*4:上演中に客席から「●●屋!」「●代目!」など屋号や代数で声をかけること

*5:格闘や刀を使った斬り合いの場面の様式的な演技・演出のこと

*6:俳優の体をワイヤーなどで吊り上げ、舞台上や客席場を飛んで移動する演出技法