Netflixのドラマ『イカゲーム』や、カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』など、ヒット作の音楽を手がける韓国出身の作曲家チョン・ジェイルさん。世界が注目するチョンさんのアジア初の演奏会が、2026年2月に東京文化会館にて行われます。大ヒット作品の楽曲制作の背景や、今回の公演に込められた思いを伺いました。

思い入れのある日本でアジア初の演奏会
今回初めて日本で演奏会を開催されるということですが、公演への思いを聞かせていただけますか?
今回は、アジアで初めてのコンサートになります。オーケストラと映画音楽を融合させるコンサートは、以前ヨーロッパツアーという形で行ったことがありますが、僕の出身であるソウルを含めてアジアでは開催したことがなくて。僕自身、住んでいたこともある大好きな日本で、日本を代表する東京フィルハーモニー交響楽団と一緒に演奏できることをとても楽しみにしています。
日本に住んでいらっしゃったご経験もあるのですね!日本のどんなところがお好きですか?
そうなんです!以前日本でお仕事をしていた時期があります。津軽三味線奏者の上妻宏光さんのバンドに、ベーシストとして所属して全国ツアーをしたり、2001〜2006年まで「プリ」というバンドで活動をしたりしていました。 日本の好きなところはたくさんありますが、能楽、俳句、着物など日本の文化がとても好きです。京都のお寺も素敵ですよね。
初版から99%作り変える!試行錯誤を重ねて誕生する名曲たち
『イカゲーム』『パラサイト』などの映画やドラマの楽曲と、オリジナル楽曲では、作り方や考え方に違いはありますか?
映画やドラマの楽曲は映像があり、何より監督の意図が非常に大事なので、監督の考えに合わせて曲を作ります。 一方で、オリジナルの楽曲は、作品のテーマから自分で考えます。音楽のために一から作業をするという意味では、映画音楽とは全く違うプロセスになります。
具体的に映像作品の監督とは、どういったコミュニケーションを取って作っているのでしょうか?
これは監督によって全く違います。ひとこと「よろしくお願いします」とだけ言って任せてくれる監督もいれば、「この楽器を使って、こういうスタイルで」と細かく指示をくださる監督もいます。『イカゲーム』は「よろしくお願いします」だけでしたが、『パラサイト』は具体的に指示をいただきました。以前、是枝裕和監督 *1ともお仕事をさせていただいたのですが、是枝監督は全部「いいよ」とおっしゃるんです。本当に良いと思ってくれているのか、僕を鼓舞するために「いいよ」とおっしゃっているのか、不思議に思いながら作っていました(笑)

映像作品の場合、どのような段取りで曲作りが進んでいくのですか?
最初に台本を読んで、自分の中で想像して一度曲を制作します。その後、撮影して編集された映像が届くので、監督と相談しながら、正確に音楽を入れていく段階に入ります。でも、最初の構想と、撮影後の映像に合わせる段階では、99%が変更になるんですよ。全部捨てるといっても過言ではないです。それでも最初に曲を制作しておくのは、自分自身のウォーミングアップになるからです。また、最初に作った曲を手がかりにイメージを膨らませていく監督もいるため、早い段階で自分の想像を形にしておくのが重要なんです。
これまでの映像作品の中で、特に印象に残っている楽曲はありますか?
『パラサイト』の『The Belt of Faith』という曲の制作は印象に残っていますね。キム一家が裕福なパク家に入り込む作戦を考え、次々に実行していく場面で流れる楽曲で、かなり長めの曲です。なかなか監督からOKが出ず、バージョン7まで試行錯誤しました。全然上手くいかないので、深酒をしまして(笑) 二日酔いになりながらピアノの前に座って、何も考えずに弾いたところ、監督にすごく気に入っていただいたということがありました。
そうだったんですね!お酒を飲みながら制作することもよくあるのですか?
毎回ではないですが(笑)、お酒を飲みながらアイデアを考えることも多いです。 論理的に考えて作ると不自然になってしまったり、見かけだけのかっこよさみたいなものが現れたりするんですが、お酒が入ることで、アイデアが心から湧き出てくることがよくあります。お酒がよい楽曲を引き出してくれるんです(笑)
伝統楽器から小学校で使う楽器まで!?
チョンさんの楽曲は、ピアノだけの曲もあれば、オーケストラの曲や珍しい楽器が使われている曲まで色々ありますが、楽器はどのようにして決めているのですか?
作曲家はあらゆる楽器を知らなくてはいけないので、世界中の伝統楽器を学びましたし、オーケストラの20〜30種類の楽器もすべて網羅しています。でも基本的には、自分が演奏するのが得意な、ピアノやギターをよく使用して作曲しています。例えばオリジナルアルバムの『Listen』は、ピアノに自信があり、自分の声に似ているという理由から、ピアノソロの楽曲を制作しました。『イカゲーム』は昔ながらの子どもの遊びが、命懸けのゲームとして再現される物語であるため、『Way Forward』という楽曲では小学校の音楽室にある楽器を使って、音や拍が合わず違和感を感じるように組み合わせました。
今回のコンサートでは、伝統楽器の奏者がゲストとして出演されますが、どんなきっかけから楽曲制作に伝統音楽を取り入れるようになったのですか?
もともと鑑賞する側として伝統音楽が好きだったんです。作曲家として新しい音を探す中で、伝統音楽や伝統楽器は素晴らしい材料だと思い、取り入れるようになりました。実際に伝統音楽で感動している人たちを目の当たりにした時に、世界で通じる音なんだなと実感しましたね。韓国でも日本と同じように伝統楽器は、難しく堅苦しいイメージを持たれていることが多いですが、宝物のような素晴らしいアーティストがたくさんいます。そういった方々と引き続き一緒にお仕事をしていきたいと思っています。

「誰か」ではなく「自分」と向き合って制作したオリジナル作品『Listen』
ソロアルバム『Listen』はどんな経緯で制作されたのでしょうか?
これまでは頼まれて制作した曲が多かったのですが、『イカゲーム』を制作した後、デッカレコードから「自分自身のために曲を作ってみないか」と提案があり、20年ぶりに自分のための曲作りをしました。自分の表現したい音を作り上げる作業は、すごく難しかったですし、いつも以上に時間がかかりました。そのアルバムのタイトルが『Listen』です。楽曲を制作している時期は、ちょうどコロナウイルスや戦争、温暖化による自然災害などが相次ぎ、「自分たち人間のどんな行いが良くなかったのだろうか」と悩みました。考えを巡らせるなかで、お互いの声を「聴く」ということができていなかったのではないかと思うようになりました。地球や自然、動物など、自分ではない他の人や物の訴えていることを聴こうとしていなかったから、このようなパンデミックや戦争、災害が起こっているのだろうなと。そのような思いをきっかけにして、『Listen』というシンプルなタイトルが生まれました。
幼い頃から尊敬する東京フィルと、幸せの祈りを込めた公演を
今回、東京フィルハーモニー交響楽団と共演されますが、どのような思いでいらっしゃいますか?
幼い頃から東京フィルが大好きで、映像や音源を探して聴いていました。尊敬するオーケストラと共演できるのは、期待と緊張があります。 昔、尊敬するアーティストのひとりである坂本龍一さんが、東京フィルと共演していた映像を何度も見たりしていました。彼と共演歴のあるオーケストラと交流ができることも非常に嬉しいです。 また、日本のアーティストの皆さんと韓国の伝統楽器の奏者が一緒に演奏することから、日本と韓国の文化交流にも期待しています。
最後に、コンサートを鑑賞されるお客様にメッセージをお願いします。
「チョン・ジェイル」という名前を知らない方も多いと思いますが、曲は知ってくださっている方もいるかもしれません。今回は映像なしで60人のオーケストラと一緒に演奏するので、曲を聴きながら映像を思い出す方もいれば、新しいものとして映像作品を観た時とは違う感動を受ける方もいると思います。
伝統音楽には「祈り」の意味も込められています。日本や韓国の幸せを祈る気持ちで演奏しますので、ぜひ楽しみに待っていてください!

プロフィール
チョン・ジェイル
|
|||||||||
| 公演名 | チョン・ジェイル/JUNG JAEIL Orchestra Concert |
|---|---|
| 日程 | 2026年2月21日 (土)17:00開演 |
| 会場 | 東京文化会館 大ホール |
| Webサイト | チョン・ジェイル/JUNG JAEIL Orchestra Concert|キョードー東京【公式】 |
| お問い合わせ | キョードー東京
0570-550-799 (平日11:00~18:00/土日祝10:00~18:00) |
舞台鑑賞は「チケットのサブスクrecri」で!
厳選されたおすすめ作品の中から、毎月舞台を観られるチケットのサブスクサービスです。演劇、ミュージカル、歌舞伎、コンサートなど、recriが提案する作品の中から好きなものを選ぶと、チケットが自宅に届きます。自分では選ばない作品を観てみたい方や、あたらしい趣味をつくりたい方にご利用いただいています。月に一度の自分へのご褒美や、ご家族やご友人へのプレゼントにも最適です。必見の名作から話題の最新作まで、作品との心がうごく出会いを、お届けいたします。
*1:国内外で高い評価を受ける映画監督。是枝監督初の韓国映画となる『ベイビー・ブローカー』(2022年)で、チョン・ジェイルさんが音楽を担当。
