
2026年1月に浅草公会堂で上演される「新春浅草歌舞伎」。本公演に出演する中村橋之助さん、市川男寅さん、中村鶴松さんにインタビュー!本公演の見どころや歌舞伎の魅力についてお話しいただきました。
「新春浅草歌舞伎」とは?
毎年1月に浅草で行われている歌舞伎公演。歌舞伎界の次代を担う若手花形俳優たちが一堂に会する舞台です。若手たちが普段演じる機会の少ない大役に挑み、互いに切磋琢磨する成長の場ともなっています。今回出演する若手俳優陣は、中村橋之助、市川男寅、中村莟玉、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松の6名。多くの舞台で頭角を現してきた顔ぶれが揃い、フレッシュでエネルギー溢れる舞台でお正月を彩ります。
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夫婦の愛が起こす奇跡に心動かされる
今回、ご自身が出演される演目の中で、特に注目して観てほしい演目・役柄はありますか?
橋之助さん:僕としては『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』というお芝居ですね。歌舞伎ではあまり「主演」という言い方はしなくて、「演し物(だしもの)」と言うのですが、この演目で僕は演し物をさせていただきます。お役に優劣はありませんが、演し物はやはり一番気合いが入ります。
『傾城反魂香』で僕が演じる浮世又平(うきよまたへい)という人物は、絵を描くことに命をかけているのですが、吃音で言葉がうまく出ないことが足枷になって、なかなか絵師として出世できずに弟弟子にも先を越されてしまう。そんな苦しい状況で、又平と彼を甲斐甲斐しく支える奥さんの「おとく」、2人の愛が奇跡を起こすという物語です。
義太夫狂言(ぎだゆうきょうげん)*1といわれる古典の演目ではあるんですが、使われる言葉はそれほど難しくないですし、夫婦の愛や又平の絵への愛に心動かされるお芝居になっているので、お客様にも感情移入しながら観ていただけたら嬉しいです。
そして、おとくを演じてくれるのが(中村)鶴松くんなんですが、中学生くらいの頃に「いつか一緒に又平とおとくをやろう」と約束していたんです。それだけ思い入れの深い演目でもあり、今回初めて演じさせていただく又平を鶴松くんのおとくと共にできるのが、とても幸せです。新春浅草歌舞伎の眼目(がんもく)の一つになれるように、心して勤めたいと思っています。
『傾城反魂香』あらすじ
絵師・土佐将監の弟子の浮世又平は生来言葉が不自由なため、妻のおとくが甲斐甲斐しく支えてきました。弟弟子の修理之助(しゅりのすけ)が土佐の苗字を名乗ることを許されたと知り、おとくは又平にも苗字を名乗らせてほしいと懇願しますが、画業で功績のない者には与えられないと突き放されてしまいます。悲嘆に暮れ自害を決意した又平が、今世の最後にと庭先の手水鉢に心魂込めて自画像を描くと、奇跡のようなできごとが…。
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男寅さん:たぶん3人とも『傾城反魂香』の話になってしまうんですが(笑)、僕はこの演目で又平の弟弟子・修理之助をやらせていただきます。修理之助は、二枚目という感じの優しい雰囲気を持った人なんです。将来的に修理之助のようなお役をたくさんやっていけるようになりたいという思いがあるので、特に注目して観てもらえたらと思っています。
単に「言葉が不自由だからかわいそう」という見方では終わらせず、言葉が不自由でも日々の努力と家族愛で困難を乗り越えて、最終的にはハッピーエンドを迎えるという、勇気や希望をもらえるお話だと思います。
また別の演目なんですが、『梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)』で演じる俣野五郎景久(またのごろうかげひさ)は反対に力強くて男らしい役でして。両極端の二役をさせていただけることも光栄に思っています。
『梶原平三誉石切』あらすじ
平家方の武将たちの元へ刀を売りにやってきた青貝師(螺鈿細工の職人)六郎太夫(ろくろだゆう)と娘の梢。武将の一人、梶原平三景時(かじわらへいぞうかげとき)は名刀だと鑑定しますが、俣野五郎景久の意見で二人の囚人を重ねて斬る「二つ胴」で斬れ味を試すことに。ところが囚人は一人しかおらず、娘のために刀を売って金の工面をしたい六郎太夫は斬られ役を買って出ます。試し斬りを請け負った梶原は2人まとめて斬ろうとしますが…。
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鶴松さん:やはり『傾城反魂香』をついにやれる時がきたかと感慨深いです。橋之助さんも話してくれましたが、又平・おとくの夫婦を一緒にやりたいという夢が叶ったのもありますし、とても素敵なお芝居なんですよね。
台詞もとても良くて、お客様一人ひとりの心に染みる言葉がたくさんあると思います。「そんなこと言わないで」と胸を締め付けられるような気持ちになる台詞もいっぱいあるんです。でも、苦しいことを一緒に乗り越えて最後は良い方向に向かっていく。そんな愛のある夫婦に、国ちゃん(橋之助さんの本名は「中村国生」)と2人でなっていきたいと思います。
『相生獅子』という舞踊の演目もやらせていただきますが、中村屋一門で行う公演以外で、自分の名前が(配役一覧の)最初にくるのは初めてなんです。一度踊ったことはあるのですが、前半はしっとりと古典的で基礎的な振りが多く、だからこそ舞踊のテクニックが問われます。一緒に踊る(尾上)左近さんも踊りがとても上手な方なので、共に同じ方向を向いてできればと思っています。
『相生獅子』あらすじ
舞台は大名家の座敷。2人の姫が四季折々の様子や恋に迷う女心を艶やかな舞で表現します。紅と白の獅子頭を手に踊るうち、蝶を追って姿を消してしまう姫たち。やがて2人は獅子の精となって現れ、牡丹が咲き乱れる中狂い踊ります。獅子が長い毛を豪快に回す「毛振り」も大きな見どころです。
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まずは「推し」を見つけてみる
今回、初めて歌舞伎を観る方に向けて、皆さんの思う歌舞伎の魅力を教えていただけますか?
橋之助さん:僕自身も歌舞伎ファンなんですが、一番の魅力は「説明できないかっこよさ」だと思いますね。歌舞伎では説明のつかないことがたくさん起きるんです。例えば今回の演目の『傾城反魂香』では、言葉もうまく出ないのに又平が最後は急に歌い出したり、『梶原平三誉石切』では大きな石を刀で切ったり。そういうシーンを観ても「なんで歌えるの?」とか「そんな大きい石切れるの?」とは思わないはずです。
説明がつかなかったり意味がわからなかったりしても、俳優が役になりきった姿をただかっこいいと思えるのが歌舞伎の魅力だと思います。劇場という空間で生の芝居で観るからこそのかっこよさもありますね。
男寅さん:一番最初の入り口としては、気になる役者を見つけていただくのもいいんじゃないかと。ジャンルは全然違うんですが、僕は川崎フロンターレというサッカーチームが好きで。最初に気になった選手がいて、その人のことを調べ始めたところから、どんどんチームのことや他の選手のことも詳しくなっていったんですよね。
歌舞伎を観るときも、初めから物語の内容や「型」などの歌舞伎独特の決まりを理解しようと思うと難しく感じるかもしれません。なので、まずは気になる役者を見つけてみる。その人のSNSなどを調べてみたりして、その人の公演をまた観に行く。
そうすると今度は歌舞伎の演目について知りたくなるし、他の役者さんのことも分かるようになってくる。歌舞伎は同じ演目をたくさんの役者が演じるので、「この演目はこの人がいいな」とか、どんどん詳しくなっていくと思います。いいなと思うポイントは観る人それぞれ、十人十色だと思うので、自分の感性で観ていて何か惹かれるところのある「推し」を見つけてもらえたらと。そこから、歌舞伎全体に興味を持ってもらえるようになるといいなと思います。
歌舞伎の「型」とは
歌舞伎では同じ演目を何人もの俳優が演じます。同じ演目を演じる中で、俳優ごとに役の解釈や物語の捉え方に違いが現れ、舞台で使う道具や衣裳、演技などにも変化が生じていきました。この俳優ごとの演じ方の違いを「型」と呼びます。型は親から子へ、師匠から弟子へと代々受け継がれていきます。
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鶴松さん:僕は、歌舞伎には色々なジャンルがあるということも一つの魅力ではないかと思っています。一口に歌舞伎といっても、隈取*2をして派手な衣裳やカツラをつけて大きな見得*3をする…といういわゆる歌舞伎らしい演目である「時代物」があれば、江戸の町人の日常を切り取った「世話物」があったり、「所作事」と呼ばれる舞踊もあったり。
あとは、男寅さんも推しの話をされていましたが、推しの人生を見届けるという楽しみもあると思います。例えば、今回の公演中に(尾上)左近さんは20歳になるんですが、今20歳のお客様が今回初めて左近さんの舞台を観たら、あと60年、70年…ずっと左近さんの成長を見られるんですよね。20歳の時にやった役を、80歳になった時にまたやるということも歌舞伎ではあり得ますし。芸の成長を見守りながら、一緒に人生を送っていくような楽しみ方もあるのかなと思います。
舞台の上で魂を燃やす様を感じてほしい
初めて歌舞伎を観劇する方に向けて、本作のおすすめの見方や楽しみ方を教えていただけますか?
橋之助さん:歌舞伎は、少し調べてから来てもらえるとより楽しめると思います。ネットであらすじを調べることもできるので、全部読んでしっかり覚えて…という必要はないですが、少し知識を持っていたほうが観やすいとは思います。
あとは、浅草の街も楽しんでほしいですね。寄り道しながら浅草公会堂に来てもらって、お芝居を観た後もご飯を食べて帰っていただいて。浅草公会堂の中でもパンフレットなどのグッズを売っていたり、浅草のお土産を買える「浅草にぎわい市」が開かれていたりするので、文化祭に来ているみたいな感覚で楽しみに来てほしいですね。
男寅さん:歌舞伎の作品には、時代背景や考え方など現代とは違うところもありますが、登場人物の誰かしらに自分自身を重ね合わせて、感情移入できる部分がきっとあるはずです。感情移入できる登場人物や気になる俳優、推しを見つけていただけると、伝統芸能を勉強しに来たという緊張感なく、エンタメとして楽しんでいただけると思います。もちろん伝統芸能としての素晴らしさも知っていただきたいですが、まずは難しく考えずに、歌舞伎ってこんなに楽しいんだと思ってもらえるきっかけになれば嬉しいです。
歌舞伎を初めて観る方には、(会場で貸し出している)イヤホンガイドを聴きながら観るのもおすすめです。ストーリーの紹介や、登場人物を誰が演じているかなど俳優の紹介もあるので、気になった俳優さんの名前も分かりますし。僕たちが先輩から教えていただく型についてなど、歌舞伎の基本的な決まりごとの部分も教えてくれます。
鶴松さん:今はYouTubeやNetflixなど、いつでもどこでも手軽に楽しめるものが増えているので、劇場まで足を運んで生のものに触れる機会がすごく少なくなっていると思うんです。そんな時代ではありますが、生の素晴らしさっていうものはやはり一度実際に観ていただかないと分からないものだと思うので、ぜひ今回の公演で体験してほしいです。
「新春浅草歌舞伎」では、まだ芸は拙いかもしれないですが、若手の役者たちが精一杯文字通り汗をかきながら舞台の上で魂を燃やします。その様は絶対お客様に伝わると思うので、一人ひとりが持つパワーや情熱を少しでも感じ取りに来ていただきたいです。
プロフィール

中村 橋之助(なかむら はしのすけ)四代目/屋号:成駒屋
1995年12月26日生まれ。中村芝翫の長男。祖父は七世中村芝翫。2000年9月歌舞伎座『菊晴勢若駒』の春駒の童ほかで初代中村国生を名のり初舞台。2016年10・11月歌舞伎座『一谷嫩軍記 熊谷陣屋』の堤軍次ほかで四代目中村橋之助を襲名。「新春浅草歌舞伎」への出演は今回で8回目。2025年公演では、『絵本太功記』の武智光秀などを演じた。2025年は、6月博多座『双蝶々曲輪日記 引窓」の南与兵衛後に南方十次兵衛、8月歌舞伎座『越後獅子』の角兵衛獅子、9月歌舞伎座『菅原伝授手習鑑』の『賀の祝』梅王丸、10月歌舞伎座『義経千本桜』の武蔵坊弁慶、11月歌舞伎座『御摂勧進帳』の富樫左衛門などを演じる。
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市川 男寅(いちかわ おとら)七代目/屋号:滝野屋
1995年12月27日生まれ。市川男女蔵の長男。祖父は四世市川左團次。2003年5月歌舞伎座『幡随長兵衛』の長兵衛倅長松、『髪結新三』の紙屋丁稚長松で七代目市川男寅を名のり初舞台。「新春浅草歌舞伎」への出演は今回が初めてとなる。2025年は、1月新橋演舞場『双仮名手本三升』の傾城浮橋、笠岡伝五右衛門、5月歌舞伎座『京鹿子娘道成寺』の所化清浄坊、6月歌舞伎座『元禄花見踊』の元禄の男、8月歌舞伎座『越後獅子』の角兵衛獅子、9月歌舞伎座『菅原伝授手習鑑』の『筆法伝授』腰元勝野、10月歌舞伎座『義経千本桜』の片岡八郎、11月歌舞伎座『御摂勧進帳』の鷲尾三郎、『鳥獣戯画絵巻』の男兎を演じる。
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中村 鶴松(なかむら つるまつ)二代目/屋号:中村屋
1995年3月15日生まれ。2000年5月歌舞伎座『源氏物語』の竹麿で清水大希の名で初舞台。2005年5月十八世中村勘三郎の部屋子となり、歌舞伎座『菅原伝授手習鑑 車引』の杉王丸で二代目中村鶴松を名のる。「新春浅草歌舞伎」への出演は、今回で6回目。2025年公演は『絵本太功記』の光秀妻操などを演じた。2025年は、2月歌舞伎座『きらら浮世伝』の与七後の十返舎一九、『人情噺文七元結』の和泉屋手代文七、3月歌舞伎座『仮名手本忠臣蔵 三段目』の茶道良斎、6月博多座『双蝶々曲輪日記 引窓』の女房お早、『福叶神恋噺』の辰五郎妹おみつ、『菅原伝授手習鑑 道行詞の甘替』苅屋姫ほか、11月歌舞伎座『鳥獣戯画絵巻』の男兎、『歌舞伎絶対続魂』の竹田出雲弟子半ニなどを演じる。2026年2月「猿若祭二月大歌舞伎」にておよそ20年名のった中村鶴松改め初代中村舞鶴を襲名する。
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公演情報

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