ユーモラスでチャーミングな西東三鬼
本作は原作があるとお聞きしましたが、どのような作品か教えていただけますか?
この作品は、俳人・西東三鬼さんの短編小説『神戸・続神戸』を原作に、1942年〜1946年の戦時下の神戸を描いたお話です。思想弾圧を逃れて東京から神戸に渡り、トアロードの国際ホテルに身を寄せた三鬼とそこで出会う人々との日々が描かれています。日本港町・神戸ならではの多国籍な人々が行き交い、さまざまな背景を持つ人物たちが物語を彩ります。戦時中という時代背景ながら、空気感はどこかあっけらかんとしていて、登場人物たちは厳しい暮らしの中でもイキイキとした魅力を持っているんです。そんな中、戦争の影が忍び寄ってきて、空襲で街が焼けたり、ホテルの人たちも亡くなったり、散り散りになったり、さまざまな喪失を経て戦後を迎える...ところで物語は結末を迎えます。
とても魅力的なキャラクターが多い作品だと伺いましたが、キャストの皆さんについてもお話をお聞かせください。
主演の(鈴木)浩介さん演じる西東三鬼さんは、本当にチャランポランで変なおじさんなんですよ。だけどなぜか憎めなくて、「先生」と呼ばれて相談事を持ち込まれるような存在でもあるんです。浩介さんご本人が持っていらっしゃる素朴で優しい雰囲気が三鬼さんのキャラクターに近いなと思うんです。チャーミングでユーモラスな三鬼さんを描けるのは浩介さんならではだと思います。不思議と三鬼さんのメガネをかけているお写真にも雰囲気が似てるんですよ(笑)
美弥るりかさんには、波子さんと絹代さんという2人の女性を演じていただくのですが、どちらも三鬼さんに強く影響を与えた女性で、浩介さんとの化学反応もとても楽しみです。お二人のキャスティングが決まった時、ようやくこの物語が動き出したんだと手応えを感じました。

神戸文化ホールの50周年をお祝いで終わらせない
神戸文化ホールの50周年記念事業として企画された本作ですが、どのような背景や思いからこの企画はスタートしたのでしょうか?
実は神戸文化ホールは、かつてはホール独自のプログラムを考えたり企画したりする専門人材がいなかったのですが、ここ数年で少しずつ状況が変わってきました。私を含め、スタッフが少しずつ増えてきて、「今ならこれまでの状況を変えられる!」という空気が生まれてきたんです。そして、2023年に50周年を迎えるというタイミングで、これをただのお祝いで終わらせるんじゃなくて「神戸文化ホールはこれから変わっていきます」というメッセージにしたいという展開になりました。とはいえ予算も人材も潤沢なわけではないので、いきなり大きな花火を打ち上げるのではなくて、階段を一段ずつ上るように3年かけてやっていこうと決めました。結果的にそれが「ロードマップ」として見える形になりました。
そうした流れの中で『流々転々』を上演しようと決めたのには、どのような理由があったのでしょうか?
ちょうど記念事業の最終年が、戦後80年・震災30年という節目の年だったので、そこにちゃんとつながる作品を置きたかったんです。神戸で生活していると、西東三鬼という不思議な名前を目にすることはあったのですが、作品は読んだことがなかったんですよ。実際本を読んでみたら「こんな神戸の姿があったんだ」と衝撃を受けました。戦時中という社会全体が真っ黒だったはずの時代に、国籍もルーツもバラバラな人たちがひとつのホテルに集まって、必死に、そして自由を手放さずに生きている。彼らの世界は、当時の世間からするとはぐれ者の集まりではあるんですけど、実際神戸のど真ん中にそんな世界が実在していたということは、奇跡のようなことだなと。この奇跡を今の世の中の人にも知ってもらいたいと思ったんです。簡単に敵を作るのではなくて共生する姿を、現代の人たちにも届けたい、舞台化したいと思いました。

作品が決まった後に、スタッフやキャストを集めていく流れになるのでしょうか?
今回の作品はそういう流れです。何も決まっていないところから「文化ホールで、『神戸・続神戸』をやりたい」と提案する“最初の種撒き”からはじまって、その後、演出の小野寺さんにお声がけをさせていただき、2人で相談をしながら企画を組み立てていきました。その過程で、小野寺さんから「浩介さんが以前から自分の作品に出たいと言ってくれていた」と伺い、鈴木さんのキャスティングに繋がり、美弥るりかさんも元宝塚歌劇団の方に出ていただきたくてお願いしました。そうやってだんだんとキャストやスタッフが揃っていき、チラシづくりやチケットの売り方、広報や関連イベント等、事業が展開していきました。企画の根っこと芽が出るところまでは、主に私と小野寺さんが担ったと思います。後は花を咲かすところまでチームみんなで頑張りたいと思います。
他人を知ることが、自分の豊かさになる
作品の立ち上げ段階から関わってこられた岡野さんの視点で、この作品を通して伝えたいメッセージや、特に注目してほしいポイントはどんなところですか?
わかりやすい言葉では「多文化共生」はひとつのキーワードになると思います。さまざまな人たちと共生することで、知らなかったことを知り、可能性が広がり、希望を感じてもらえたら嬉しいです。自分と同じ価値観やテリトリーの中だけで生きる方が、はるかに楽だとは思います。だけど現実は自分一人だけで世界が回っているわけではないので、知らないことや自分とは違うものと出会った時に、面倒くさいとか、腹立たしいという感情だけで終わらせずに“豊かさ”と捉えてみてほしいです。そこが人間の面白さでもあると思うんです。
印象的なシーンはありますか?
ホテルのロビーで、三鬼さんとエジプト人の友達がレコードを聴いているシーンがあるんですけど、そのシーンが私は好きですね。戦時中で「他国の人は全て敵」といった空気に覆われているのに、そのホテルの一角では敵同士が一緒に音楽を聴いている。そこだけ風が通り抜けていくような、清々しい空気が流れているシーンなんです。グローバル化が進むネット社会の現代では、情報が沢山溢れていると、自分がどこにいるのか、どう生きていけばいいのか分からなくなる時もあると思うんです。そんな時は他者をシャットアウトする方が楽かもしれないけれど、逆に他者との関係性で自分も救われるっていうこともありますよね。そういう象徴として描かれてるシーンで、とても印象的です。

舞台と客席のリアルなエネルギー交換
精力的に芸術の場を広げていらっしゃる岡野さんにとって、舞台の一番の魅力は何だと思われますか?
やっぱり一番は「生」であることだと思います。ただ、それって実際に体験したことがない人に伝えるのはすごく難しいんですよね。演劇に限らず、球場やライブ会場、コンサート会場でも、生で感激する瞬間ってあると思うんです。その場の空気とか、周りの人の熱とか、そういうものを全部含めて「生」に出会うっていう体験は、やっぱり特別だなと思います。特に演劇は、観て・聴いて・その人の存在全部を受け取らないと成立しないので、エネルギーを使うとは思うんですよ。でも、人間をじっくりと観察する貴重な機会であり、観終わった後に何か自分に返ってくる感じがある。それは実際に劇場で生のお芝居を観た人なら、きっと分かる感覚だと思います。そのリアルな力の交換みたいな体験は、なかなか他では味わえないと思います!そこにハマると、お芝居を観るのは本当に面白いと思いますよ。
初めて舞台をご覧になる方もいらっしゃると思いますので、観にきてくださる方に向けてメッセージをお願いします。
この作品には、風変わりで魅力的なキャラクターがいっぱい出てきます。もしかしたら、自分と似ている人も出てくるかもしれないし、こんな人が世の中にいるんだろうかと思う人もいるかもしれません。でも、そんないろいろな人間模様が面白くて、作品を身近に感じてもらえるんじゃないかなと思います。自分に近い人や、苦手な人、もしかしたら自分の分身みたいな人が出てくる可能性もあって...。そういう面白さをぜひ探しにきてもらえたらなと思います。

プロフィール
岡野 亜紀子(おかの あきこ)
1988年から1994年まで新神戸オリエンタル劇場に勤務。1994年より神戸アートビレッジセンター準備室に参加し、1996年に開館した神戸アートビレッジセンター(KAVC)に勤務。2009年退職後は、文化律灘合同会社による指定管理参画プロジェクトに参加し、神戸市立灘区民ホールで勤務。2017年より(公財)神戸市民文化振興財団に転じ、その後、神戸文化ホールのチーフプロデューサーに就任。現在、(公財)神戸市民文化振興財団文化ホール事業部長、公益財団法人姫路市文化国際交流財団演劇アドバイザー、西宮市フレンテホールディレクター。
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公演情報

| 公演名 |
『流々転々 KOBE 1942-1946』
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日程・会場 ▶︎お問い合わせ |
神戸文化ホール 中ホール
2026年2月14日(土)、15日(日)
▶︎神戸文化ホールプレイガイド
TEL:078-351-3349
(10:00-17:00/月曜定休※祝日の場合は翌平日が休業)
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| Webサイト |
流々転々 KOBE 1942-1946 | 神戸文化ホール
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