2025年12月に大阪松竹座で開幕する『スイートホーム ビターホーム』。主演の中山優馬さんと作・演出を務める藤井清美さんにrecri独占インタビューを実施しました!本作は、藤井さんが手がける大人気の現代劇「お仕事コメディシリーズ」の第3弾。観劇初心者の方に向けた作品の見どころや、生のお芝居を観劇することの魅力を伺いました。

現代のサラリーマンを通して描く人間の多面性
まずは中山さんにお伺いします。『スイートホーム ビターホーム』での中山さんの役柄について教えてください。
中山さん:僕はハウスメーカーの営業担当として働く努力良介(ぬりき りょうすけ)という役を演じます。仕事にも家庭にもプライドを持って生きていますが、二つ以上のことを同時に行うのがすごく苦手という不器用な一面を持っています。仕事への姿勢や仕事を通して成し遂げたいことについては、役に共感する部分が多々ありますね。 一方で、これまで僕が演じてきた作品では、今回のような現代を描いた作品は少ないので、役に対してのアプローチの難しさを感じています。この役に限らず、人間って非常に多面的で、環境によって振る舞いや行動が違ってくると思うんです。そういった複雑さを演じる上では、「なぜその行動に至るのか」という理由を知る必要があると思っています。 特にこの物語は、一人の人間が見せる色々な顔が描かれているので、どのように演じ分けるかがポイントになってくると思います。
なるほど。非常に繊細で複雑な人間のリアルな部分の表現は難しそうですね。
藤井さん:「世の中こういう人いるよなぁ」という「あるある」ってたくさん存在すると思いますが、それを一人の人間として結実させて、表現するのが俳優さんのお仕事です。営業の仕事をしている顔と家族に向ける顔は違いますよね。どの顔をとっても一人の人間として成立させることは本当に大変なことだと思います。
中山さん:そうですね。人間誰しもが持つ多面性を、再現性を持って表現することについては苦労するかなと思っています。もちろんその難しい作業が楽しくて俳優をやっているというのはあるのですが(笑)
今回のサラリーマンという役に関してはどのように役作りをしていく予定ですか?
まず、ハウスメーカーで働くサラリーマンという存在自体が、自分の仕事とはかけ離れているので、これから勉強していきたいと思っています。 今回は店長という立場の役ですが、組織においては、立場に加えて年齢という日本人ならではの考慮すべき要素もあるじゃないですか。以前所属していた事務所でも、年下の先輩や年上の後輩がいて、複雑な距離感を経験しました。この距離感って、会話だけではなく空気感で伝わることもありますよね。そういう絶妙な距離感が、この舞台にはたくさん出てきます。誰がどうやって会話や空気感をリードするのか、劇場がどんな雰囲気になるのかがとても楽しみです。自分自身の人生経験も生かしながら演じたいと思います。

正義のヒーロー無き時代に、自分は何を信じるのかを問う
続いては藤井さんにお伺いします。現代劇というジャンルのお仕事コメディシリーズを制作する際に、こだわっていることや気をつけていることはありますか?
藤井さん:「今を書く」というのは実はとても難しいんです。「今」という時代はまだ評価が定まっていないので、もう少し時間がたった時に何が批判されて、何が賞賛されるのかが見えない。だからこそ、お客様の中でも様々な意見があると思います。そういう、見方が一致しないことを描いてお客様が楽しめる舞台を作っていくにはどうすればいいのか?――と、このお仕事コメディシリーズを作るときはいつも悩みます。そのため、リサーチを通して今を生きる人たちの不安や希望を想像し、様々な世代・立場・価値観の登場人物を描いています。ある意味、どのように今の時代を見るのかという覚悟が試されているなと感じています。
今作に関してはどのような覚悟をお持ちですか ?
藤井さん:例えば昔は「女性の生き方」とか、「男性の生き方」というある種の正解がありましたが、今はなくなってきていますよね。何を良いとするのか、自分の生きるべき道はどこにあるのかというのを自分で探さなくてはいけません。今回の作品では、そんな正解のない時代に、自分は何を信じるのか、信じ抜けるのかということを描きたいと思っています。 そうなると、はっきりした悪役がいて、お客さんが全員で正義のヒーローを応援するような設定の芝居とは異なります。正解のはっきりしている物語では、観る人も演じる人も、簡単に役に気持ちを乗せることができますが、今回の場合はそうはいきません。正解のない物語で感情を描くのも難しいし、俳優さんたちと一緒にお客様を引っ張っていく状態を作るのはかなり大変だと思います。主人公だけど、ズルをするシーンやひよる瞬間もある。でも、そんな主人公が最後に何を見出すのか、というところにお客さんの視点が向き、その過程を噛み締めることができる作品になるといいなと思っています。

お客さんのリアクションで、公演中も日々芝居が変化する
映像作品のご経験も豊富なお二人ですが、生の舞台ならではの、お客様の前で演じることの魅力について教えてください。
藤井さん:俳優さんたちは、稽古場で作り上げてきたものを信じて、本番に臨みますが、公演中のお客様のリアクションから教えてもらって、次の公演に活かすということが多いんです。観客の皆様の反応は、大きな役割を果たしていただいています。
中山さん:本当にお客さんがいないと成立しないですよね。今回の作品は、まだ出演者同士で本読み*1をした段階ですが、ここから稽古を重ねて絆を深め、間合いを作っていきます。でも、稽古でどれだけ上手くできたとしても、本番を経験してみるとまた新たな表現に気づくんですよね。特にこの作品は、真ん中に大きなテーマがあるというよりは、揺れ動いている人間の面白さを表現しています。登場人物の心情がどう動くかわからない余白が残っているところが楽しさでもあると思っているので、公演中も日々演じ方が変わると思います。
藤井さん:過去のお仕事シリーズで「自分の役は、同じ世代の人には受け入れられるけど、自分よりも上の世代の人には受けられないと思う」って言っていた俳優さんがいたんです。でも、公演が始まって客席のお客さんの反応を見てみたら、「自分よりも二十歳くらい年上の方が自分のセリフで泣いていた」と話していました。若い頃の悩みのシーンだったので、昔を思い出したのか、ひょっとするとご自身のお子さんのことを想像していたのかもしれません。これはまさに、お客様に教えていただいたことでした。 だから劇場に足を運んでくださるということは、芝居を一緒につくったり育てたりすることに参加していただくということだと思います。

劇場には、日常とは違う世界に入り込める特別なパワーがある
逆に、演劇を観る側として感じる魅力や印象に残っているエピソードはありますか?
中山さん:劇場にしかないパワーがあることだと思います。コロナ禍を経て、僕自身も劇場で観たものを配信で観る経験もしましたが、リアルな場にしかない空気を肌で感じられるということが演劇の持つパワーなんだなと思いました。
僕は、演劇から言葉にできない感情をもらうんですよね。観劇後、自分でもよくわからない感情が胸の奥に引っかかって、自分にとって印象深かったシーンを何度も思い出してしまうことがあります。これは、新しい価値観なのかもしれないし、自分が心の奥底で感じている自分の嫌いな部分やトラウマのような感情なのかもしれません。観劇を通して自分が持っていなかったはずの新たな感覚や感情に気づけることが、人生の可能性を広げてくれるような気がしています。
ありがとうございます。藤井さんはいかがですか?
藤井さん: 幼稚園の時に宝塚を観たのが初めての観劇でした。当時、映画やドラマは、その世界に憧れても自分は入ることができない特別な感じがしたんですよ。でも舞台は、目の前に生身の人間がいるから、自分もその世界に入り込める可能性を感じたんです。 幼稚園児の私は、セリフを覚えて、観客のふりをしてくれる親の前で、女優になりきっていたのを覚えています。今思うとそれが、舞台への憧れのスタートでしたね。
初めて舞台を観るという方も含め、本作を観劇される方に向けてメッセージをお願いします。
藤井さん:この作品では、演劇を観たことがなくても、テレビなどの他の媒体で観たことのある俳優さんが出演しています。彼らが演じている姿を目撃するのは、テレビ越しに観るのとまた違うはずです。目の前で全く新しい役を演じる姿を観て、俳優という仕事のすごさや面白さを感じていただければと思います。 逆に出演者の10代の頃を知っていたり、ずっと応援してきた方は、彼らの役を通して自分の成長にも気づくかもしれません。登場人物と同じような悩みを感じる歳になったな、とか。今までの時間と舞台上での時間が繋がる感覚も楽しんでいただけるかなと思います。
中山さん:悩みに直面した人が、どう乗り越えていくかを見る機会って、実際にはなかなか経験しないことだと思いますが、この作品では登場人物たちの人生の一部を目撃できます。シェイクスピアやマリーアントワネットが出てくる昔の話ではなく、自分の周りでも起こりうるリアルな物語です。必死に生きる登場人物たちに自分を照らし合わせながら観てもらって、観終わった後に「観て良かった」と思えるといいなと思っています。僕も精一杯生きる姿をリアルに演じたいと思っていますので、その姿をぜひ目撃しに来てください!

プロフィール
中山 優馬(なかやま ゆうま)
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藤井 清美(ふじい きよみ)
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| 公演名 | 松竹創業130周年 大阪松竹座さよなら公演 「スイートホーム ビターホーム」 |
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| 日程・会場 ▶︎お問い合わせ |
【大阪公演】 2025年12月6日(土)〜14日(日) 大阪松竹座 ▶︎大阪松竹座(06-6214-2211) 【石川公演】 2025年12月20日(土) 北國新聞赤羽ホール ▶︎北國新聞赤羽ホール 076-260-3555(平日10:00~18:00) 【東京公演】 2025年12月26日(金)〜29日(月) シアターH ▶︎キョードーインフォメーション 0570-200-888(12:00~17:00 土日祝休業) |
| Webサイト | スイートホームビターホーム |
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*1:稽古の前に出演者や劇作家、演出家が一同に脚本を読み、意図を伝える作業