「どんでん返しの面白さを味わって」無自覚の罪が暴かれるスリル溢れるサスペンス・ミステリー(『スリー・キングダムス Three Kingdoms』俳優:伊礼彼方さん)

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2025年12月に新国立劇場で上演される『スリー・キングダムス Three Kingdoms』。本作に出演される伊礼彼方さんにインタビュー! 舞台鑑賞初心者の方に向けて、この作品をどんな方におすすめしたいか、伊礼さんの思う舞台の魅力など、たっぷり語っていただきました。

『スリー・キングダムス Three Kingdoms』あらすじ

刑事のイグネイシアスは、テムズ川に浮かんだ変死体の捜査を開始する。捜査を進めるうちに、被害者はいかがわしいビデオに出演していたロシア語圏出身の女性であることが判明する。さらに、その犯行が、イッツ・ア・ビューティフル・デイの名曲『ホワイト・バード』と同名の組織によるものであることを突きとめる。イグネイシアスは捜査のため、同僚のチャーリーとともに、「ホワイト・バード」が潜伏していると思われるドイツ、ハンブルクへと渡る。ハンブルクで、現地の刑事シュテッフェンの協力のもと捜査を始める二人だったが、イグネイシアスがかつてドイツに留学していた頃の不祥事を調べ上げていたシュテッフェンにより、事態は思わぬ方向に進んでいくのであった。
(公式HPより:https://www.nntt.jac.go.jp/play/threekingdoms/)

ミステリー好きがのめり込める世界

本作について、どのような作品か教えていただけますか?

イギリス演劇界の奇才と言われる劇作家、サイモン・スティーヴンスの戯曲で、ヨーロッパにずっと昔からはびこっている犯罪に切り込んだ作品です。かなり攻めの作品だと感じましたが、国によっては社会問題を批判的に取り上げ演劇にするのは当たり前に行われていることだと、新国立劇場のプロデューサーさんから伺いました。日本で同じように社会の裏側を取材した作品を作ったら相当炎上するのではないか、と思うくらい衝撃的な作品です。

グロテスクなところもありますが、ミステリー小説好きな人は、のめり込める内容だと思います。ホラー、サスペンス、ミステリー、最後は不条理といった、色々な要素があって一筋縄ではいかない作品ですね。

今回が日本初演となりますが、日本で上演する時にどのような演出になるのか注目されているポイントなどはありますか?

劇中で、イギリス・ドイツ・エストニアの3カ国に渡って旅をしていくんですが、3つの言語が登場するので、それをどのように演出するんだろう?とずっと気になっていますね。イギリスで上演された時は、実際に3カ国の俳優が集まって各国の言語で演じ、ドイツ語・エストニア語には字幕を付けていたそうです。それを今回はすべて日本語で上演すると聞いています。実際に演じるとどんな風になるのか、まだ稽古が始まっていないので分からないですが、楽しみなところではあります。

答え合わせしていく感覚を味わう

伊礼さんが演じるイグネイシアスという人物についてご紹介いただけますか?

非常に有能な刑事です。ドイツに数年留学して大学で植物学を学んでいたという設定で、そこから刑事になっているので、知識・教養があって清潔感がある人というのが最初の印象です。そんなイグネイシアスが、自分は完璧な人間だと思い込んだまま、彼自身も気づかないうちに実は少しずつ秘密が暴かれていき、お客様も一緒にその現場を目撃していくような作りになっているのがミソです。最後まで観た時に、「オープニングはそういうことだったのか!」とか「あの時のセリフはここに繋がっていたのか!」と気づく、どんでん返しの面白さがありますね。

イグネイシアスとパートナーのキャロラインとの関係性も本当に意味深なんですよ。2人の会話がぎこちなくて全く噛み合わないので、僕はイグネイシアスが勝手に自分の都合の良い方に解釈しながら話しているのかなと思っています。特に気になるのが、花の話をしているシーンがあって、イグネイシアスは植物学を学んでいたはずなのに、全く的外れなことを言うんです。この会話にどういう意味があるんだろうとずっと気になっていて…。

考え過ぎかもしれないですが、こうして考察するのが楽しいんですよね。舞台を観終わってから「あれはどういうことだったんだろう?」と考えてみて、答え合わせをしたくなったら、もう一度観るのもおすすめです!僕も2回目に台本を読んだ時にすごい発見があって、3回目でさらに心をえぐられるような衝撃を感じたり、考察が広がったりしました。その発見をする瞬間ってすごく幸せなんですよ。この感覚を観客の皆さんにも味わってもらえるといいなと思います。

お客様も出演者の一人になれる

映像作品などと違って、公演期間中同じ物語を何度も演じるのも演劇の特徴のひとつかと思いますが、その中でも舞台の空気感などの変化は感じるものでしょうか?

毎公演変化していきますね。舞台はお客様が最後のピースになるので、俳優は同じことをやっているつもりでも、お客様の反応次第で毎公演変わります。もちろん稽古でベースを作ってはいるのですが、本番になってお客様から教わることもたくさんあります。

例えば、一番分かりやすいのはコメディです。稽古場で演じていると感覚が麻痺してきて、つい「やりすぎ」になってしまいがちなんです。そのままいざ舞台に出てみてもお客様にはウケなくて…次の回では少し押さえてみたら爆笑してもらえた、というようなことも。役者は熱が入ると120%の力でやりたくなるものなんですが、70%ぐらいの方がお客様にとっては受け取りやすいこともあるんですよね。

高齢の方が多い時や子どもたちが観ている時、外国人の方が観ている時など、お客様の層でも反応は大きく変わります。「こんなところで拍手が起きるんだ!」と思ったら、次の日は同じシーンで全く拍手がなくて「滑った!?」と思ったり(笑)これが演劇や音楽などライブで楽しむものがずっと残っている理由だと思います。その場その瞬間だけの思ってもみなかった空気感は、映像では絶対に味わえません。

僕は、お客様からの最後の拍手までが舞台の演出の一つだと思っています。僕たちはお客様の拍手をいただいて、それをエネルギーにして翌日のお客様に届けている。そういう循環が行われています。キャストや作品そのものに影響を与えられる存在という意味では、お客様も出演者の一人なのではないでしょうか。

伊礼さんご自身が初めて舞台を観たときの思い出はありますか?

僕の初観劇はミュージカルの『モーツァルト!』だったと思います。『エリザベート』というミュージカル作品のオーディションに合格した25、6歳の頃だったんですが、帝劇(帝国劇場)ってどこですか?くらいの、ミュージカルのミの字も知らないような状態でした。帝劇のふかふかの座席で聴くオ-ケストラの音に心地よくなって、ついうとうとしてしまった場面もあり…(笑)そのあと改めてCDを聴いて勉強し直してみたら、すごく良い曲がいっぱいあることに気づいて、もう一回観に行きました。教養は若い頃からつけたほうがいいと思いましたね。

俳優も観客も特別な気持ちにする劇場

今回は新国立劇場での上演ですが、他の劇場との違いや印象・思い出などあれば教えていただけますか?

新国立劇場は特別緊張感がありますね。観劇に来るお客様からも「新国に観に来たぞ!」という一段心構えが違うのが伝わってきます。この劇場のすごいところは、誰がどんな演出を考えても叶えられるようなシステムになっているところだと思います。

以前に新国立劇場の中劇場に立った時驚いたのは、舞台の奥行きの広さでした。白井晃さん演出の『テンペスト』(2014年)という舞台をやったんですが、奥行きが50メートルぐらいあるんじゃないかっていう広い舞台上を段ボールで埋め尽くしたんですよ。通常は舞台上を壁で区切っていて、その奥行きの半分ぐらいしか使っていなかったということを初めて知りました。僕は使ったことがないけれど、セリ*1もあると思いますし、舞台の上からも何か吊り下げるなど、色々な演出に対応できるようになっているようですね。

劇場が変わるとお芝居にも違いは出るものですか?

そうですね。ただ、座席数が500席であろうと2000席であろうと、なるべくリアルな芝居を作ろうと心がけています。どうしても大きな劇場だと細かい筋肉の動きや目の動きだけで芝居を伝えるというのは限界があると思いますが、その雰囲気や深みはきちんと伝わるはずです。劇場が大きくなると、自然と声を大きく出そうとしたり、大きな芝居になってしまったりするんです。それはもう人間に備わっている感覚なので、大きくなってしまうのを意識的に抑えようとすることはありますね。

初めて舞台を観るという方も含め、本作を観劇される方に向けてメッセージをお願いします。

初めて観劇される方だったら、「新国立劇場って初台にあるんだ」とか「東京オペラシティが隣にあるんだ」など、知らなかったことをたくさん発見する楽しみもあると思います。建物としても素晴らしいので、客席だけでなく色々な場所を見てみてほしいですね。

作品のポイントとしては、ミステリーやサスペンス作品が好きで、本の帯に「どんでん返し」と書いてあったら手に取ってしまうような人は、まず損しないと思います。僕もどんでん返しというワードが大好きなんです(笑)ミステリー小説好きな方には、自分なりの解釈や考察を楽しんでいただけると思います。

自分はただ日常を過ごしているつもりでも、いつ事件の当事者になってしまうか分からない恐ろしさといった大事な教訓も与えてくれる作品だと思います。色々なことを考えさせられる深いテーマがお好きな方にはもってこいなので、この作品を観てどんなことを考えたか、いつか僕と一緒にお話ししましょう!

ヘアメイク:Eita(Iris)
スタイリスト:吉田幸弘

プロフィール

伊礼 彼方(いれい かなた)

幼少期をアルゼンチンで過ごし、その後横浜へ。2006年、『テニスの王子様』で舞台デビュー。08年『エリザベート』ルドルフ皇太子役に抜擢され、以降、舞台を中心に、ミュージカル、ストレートプレイ、ラジオドラマ、コンサートなどジャンルや役柄を問わず幅広い表現力と歌唱力を武器に多方面で活動中。近年ではテレビにも活躍の場をのばし、『オールスター合唱バトル』やドラマでは連続テレビ小説『あんぱん』『らんまん』などがある。 【主な舞台】『レ・ミゼラブル』『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』『テラヤマキャバレー』『NOISES OFF』『キングアーサー』『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』『ミス・サイゴン』『ブラッド・ブラザーズ』『ダム・ウェイター』など。新国立劇場では『あわれ彼女は娼婦』『テンペスト』に出演。

公演情報

公演名 スリー・キングダムス Three Kingdoms
日程 2025年12月2日(火)~14日(日)
会場 新国立劇場 中劇場
Webサイト スリー・キングダムス | 新国立劇場 演劇
お問い合わせ 新国立劇場ボックスオフィス
03-5352-9999(10:00~18:00/休館日を除き年中無休)

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*1:舞台床の一部を四角く切り抜いて、そこから俳優や舞台装置を上げ下げできるようにした装置