「日韓キャストのエネルギーを浴びてほしい」自由と不自由の二面性が舞台の魅力(『焼肉ドラゴン』俳優:村川絵梨さん、智順さん、松永玲子さん)

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2025年10月に新国立劇場 小劇場で開幕する『焼肉ドラゴン』。鄭義信(チョン・ウィシン)さんが作・演出を務め2008年に初演を迎えた本作は、2011年、2016年と再演を重ね、映画化もされました。今回4度目の上演に初出演する、村川絵梨さん、智順さん、松永玲子さんにインタビュー!作品の見どころやどんな方におすすめしたいか、舞台鑑賞初心者の方に向けてお三方の考える「舞台の魅力」などを伺いました。

「幸福」を探す家族の絆を描いた作品

『焼肉ドラゴン』は、今回が4回目の上演となりますが、初めてこの作品を観る方に向けて、どういった物語なのか教えていただけますか?

松永さん:焼肉屋・「焼肉ドラゴン」を営む在日コリアンの家族の物語です。この家族を中心に、ご近所さんとか、お友達とか恋人とか、色々な人の「集合体」のお話でもあります。国籍や言語が違う人たちの集まりというところもポイントですが、基本的には「家族」がテーマとなっています。

村川さん:この物語に登場する人たちは、みんなそれぞれに抱えている思いがあります。舞台となっているのは1970年前後。戦後すぐの日本という時代背景の中で、苦しみや悲しみを根深く抱えているんですが、だからこそ明るく生きようとしています。鄭さんの作品には以前も「幸福」という言葉が使われていたのですが、『焼肉ドラゴン』の登場人物たちも幸せではなくて「幸福」を探しているのだと思います。

「幸せ」と「幸福」には違いがあるんでしょうか?

村川さん:受け止め方の違いでしょうかね。「幸福」という言葉を鄭さんから教えてもらって、すごくいいなと思いました。笑う門には福来たるじゃないですけど、幸せにプラスして福がくる感じ。観た方には「幸福」って言葉の意味を考えてもらえるんじゃないかなと思います。 狭い街で人々が密集して暮らす息苦しい中でも、なんとか笑い飛ばして明るく生きようとしている人たちが登場するので、幕が開いた瞬間から、もうとんでもないエネルギーを浴びることになると思います。私が以前の公演を観客として見た時はそう感じました。

智順さん:冒頭の数分だけで絶対心を掴まれますよね。

村川さん:そうなんです。キャスト全員すごい熱量だから、本当に元気になると思います。胸の奥の方から、エネルギーを引っ張り出されるような感じになれると思います。1人でも多くの方にそのエネルギーを楽しんでいただけたら嬉しいです。

「必死で喋ろうとする」姿から感じるパワー

「ここが見どころ!」というシーンはありますか?

松永さん:初演にも出演されていたオリジナルキャストのお一人、「焼肉ドラゴン」を営む家族のお母さん役のコ・スヒさんをぜひ見ていただきたいですね。見てほしいというか、釘付けになると思います!(笑)

あとは、ネタバレになってしまうのであまり詳しくお話しできないですが、初めて見たときからずっと記憶に残っている台詞があるんです。日本人キャストの台詞ではなく、韓国人の俳優の方が喋る、日本語の長台詞です。やはりネイティブではないから拙く聞こえるかもしれませんが、だからこそ心に刺さってきます。スラスラ喋れないからこそ、すごいパワーを込めて言葉を発するんです。日本人キャストが韓国語を喋る時も同じだと思うんですが、「必死で喋ろうとする力」に、真に迫るものを感じます。

言語に関して、もうひとつこの作品ならではのことがありまして、韓国語で喋っている場面で日本語の字幕が出るんですけど、関西の街の話なので字幕も関西弁なんですよ。

智順さん:コテコテの関西弁ですよね。私は大阪出身だけど、東京に来て長いのもあるので、韓国語の台詞よりも関西弁のほうが大変かも…(笑)千葉(哲也)さんなんて、関西出身じゃないのに、本当に関西人に見えてくるのですごいと思います!

松永さん:日本人の出演者でも関西出身の方ばかりではないんですよね。だから厳密にはイントネーションとか違うぞ、っていうところもあると思うんですけど、それを超えた熱気があるのもこの作品の強みかなと思います。

村川さん:それから、この作品は開演前から色々な仕掛けがあるので、注目して観てほしいです。実は舞台上でも実際に肉を焼くんですよ!匂いも客席まで届いて、皆さん焼き肉を食べたくなると思います。

松永さん:私、開演前の時間にしか出ていない役があるんです。なので開場時間に合わせて来ていただけると嬉しい(笑)

村川さん:開演前から色々なことが起きるのも、この作品の醍醐味ですね!

韓国ドラマ好きも楽しめる日韓俳優陣の共演

この作品は、どのような方におすすめでしょうか?

松永さん:「昭和レトロ」好きの方におすすめしたいですね。1969~1970年の大阪万博前後の時代の話なので、その時代の雰囲気が好きな人は楽しめるんじゃないかと思います。

智順さん:劇中で歌われるのもその時代に流行った曲ですよね。

松永さん:1960年代ヒットソングがたくさん入ってますね。

智順さん:私は、舞台鑑賞初心者の方におすすめしたいです。何を持ち帰って何を思うかは人それぞれですが、シンプルにお話が難しくなくて、誰が観ても伝わるものがあると思うので、きっと初心者の方でも観やすいと思います。

村川さん:この作品は韓国内で、俳優を目指す若い方が学生の頃から触れているくらい、よい戯曲の定石として知られている作品だと聞きました。なので、日本でも演劇に興味がある人にはぜひ観ていただきたいですね。観劇初心者の方でも「有名な作品だから観ておこうかな」という気持ちで来てもらうのもいいと思います。

松永さん:あとは、韓国ドラマ好きの方にもおすすめですよ。いろいろなドラマに出演されている韓国の俳優さんを生で観られるチャンスなので、韓ドラ好きの友人は「涙ちょちょ切れるくらい嬉しい」と言っています。韓国の俳優さんたちと稽古場で一緒にいると、びっくりするくらい面白いし、お芝居がうまいです。ぜひそのすごさを生で浴びてもらいたいです。

「不自由」な観劇を「自由な見方」で楽しんで

舞台や映像と幅広くご活躍されているお三方ですが、皆さんの思う「舞台の魅力」をお伺いできますか?

智順さん:「どこを見てもいい」というところだと思います。映像は、ちゃんと決められたカットがあって編集されているけど、舞台って、喋っている人とは違う人を見ていてもいいんです。映像よりも自由な見方ができると思います。

村川さん:私は「生もの」の強さに勝るものはないと思っています。音楽のライブのように、もう二度と同じことは起こらないっていうライブ感が好きな方には、舞台がおすすめです。舞台に行ってみたいなと思っている人には、ぜひ一歩踏み出してみてほしいです。

松永さん:舞台の「不自由さ」も魅力のひとつだと思います。サブスクで配信されている番組は、ボタンひとつで戻したり進めたりすることができますが、舞台ではそれができません。「さっきのシーン何やってたっけ?」と確認できない不便さもあるんですけど、その不自由さも含めて舞台を楽しんでほしいです。劇場の客席やロビーの雰囲気込みで、イベントとして楽しんでいただければと思います。

智順さん:わざわざ劇場まで行くという、その道のりも楽しんでほしいですよね。家を出て帰るまで全部が舞台という体験だと思います。

ちなみに、皆さんの初観劇や舞台の魅力に引き込まれた時など覚えていたら教えていただけますか?

村川さん:劇団四季の『ライオンキング』が初観劇でした。8歳か、9歳くらいだったと思うんですが、終わってすぐ立ち上がれないくらい感動しました。あとは、ミュージカルの『アニー』も同じくらいの歳で観て「私もやってみたい!」と思って、すぐオーディションを受けました。書類選考で2回落とされてしまいましたが(笑)

松永さん:雷が落ちたような衝撃を受けたのは、私が高校生の時でした。当時大学生だった高校時代の先輩が舞台に出るというので、その公演を観に行きました。マキノノゾミ*1さんの劇団M.O.P.で『寝取られ宗介』という、つかこうへい*2さんが書いたお芝居を上演されていました。キムラ緑子さんも出演していたその舞台を観て、この人たちとお芝居したいと思って演劇の道に進んで、今現在の私があります。

お2人とも「自分も舞台に立ちたい」と思うきっかけになった作品があったんですね。智順さんはいかがでしょうか?

智順さん:若い頃に観てすごく記憶に残っているのは、俳優の小宮孝泰さんという方が出演されていた一人芝居『接見』です。一人芝居なので、相手はいないんですけれど、不思議なことに「相手が何を喋っているか分かる」と感じたんですよ。小宮さんのお芝居の力なんでしょうね、すごいなと思いました。

『焼肉ドラゴン』が初めての観劇になる方もいらっしゃると思います。最後に、お客様へのメッセージをお願いします!

松永さん:初めての観劇でこの作品を選んだあなたは、かなりセンスがいいです!この作品のどこに「ピン」とくるかは人それぞれだと思いますが、初観劇にこの作品を選んでくださる方は引きが強いですね。

村川さん:前情報はなくても大丈夫な作品なので、迷っている方がいれば、ぜひ怖がらずにぜひ観に来てください!

智順さん:今回で『焼肉ドラゴン』はラストステージだと鄭さんがおっしゃっているので、これを逃すともう観られないかもしれません。ぜひこの機会をお見逃しなく!

プロフィール

村川 絵梨(むらかわ えり)

2002年にユニット「BOYSTYLE」として歌手デビュー。2004年、映画『ロード88 出会い路、四国へ』で主演を務め、俳優業に進出。2005~2006年、連続テレビ小説『風のハルカ』ではヒロインを務めた。主な出演作に映画『金子差入店』、ドラマ『嘘解きレトリック』『うちの弁護士は手がかかる』、大河ドラマ『青天を衝け』、『ROOKIES」シリーズなどがある。舞台出演作としては『それでは登場して頂きましょう』『テラヤマ・キャバレー』『ドリームガールズ』『奇跡の人』『ザ・ドクター』『誰にも知られず死ぬ朝』『ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~』『No.9 -不滅の旋律-』など。新国立劇場では『レオポルトシュタット』『白蟻の巣』『たとえば野に咲く花のように』に出演。

智順(ちすん)

2005年映画『パッチギ』にてスクリーンデビュー。これまでの主な出演作に、映画『大きな玉ねぎの下で』『高野豆腐店の春』『ロックンロール・ストリップ』『ごっこ』『無限の住人』、ドラマ『人事の人見』『東京サラダボウル』『相棒』『旅屋おかえり』『ジャンヌの裁き』など。舞台出演作としては『bitter』『some day』『ピクトグラム』『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』『五月、忘れ去られた庭の片隅に花が咲く』『アーモンド』『ジュリアス・シーザー』『セールスマンの死』『海のホタル』など。新国立劇場では『アジア温泉』『昔の女』に出演。

松永 玲子(まつなが れいこ)

ナイロン100℃所属。舞台やドラマ、映画、ナレーション、コラム執筆など幅広く活動。主な出演に映画『35年目のラブレター』、ドラマ『バレエ男子!』『未来の私にブッかまされる⁉』、TV『100分de名著』~ウェイリー版「源氏物語」~、『チコちゃんに叱られる!』(再現ドラマ)、コラム『えんぶTOWN~今夜もネットショッピング~』など。舞台出演作としては『先生の背中』『なんかの味』『片づけたい女たち』『江戸時代の思い出』『眠くなっちゃった』『Don’t freak out』『音楽劇ブンとフン』『薮原検校』『グリークス』『修道女たち』『百年の秘密』『夜、ナク、鳥』『大悪名』『御宿かわせみ』『カラフト伯父さん』など。新国立劇場では『オレステイア』に出演。

公演情報

公演名 『焼肉ドラゴン』
日程・会場
▶︎お問い合わせ
【東京公演】
2025年10月7日(火)~10月27日(月)
新国立劇場 小劇場
2025年12月19日(金)~12月21日(日) <凱旋公演>
新国立劇場 中劇場
▶︎新国立劇場ボックスオフィス
 03-5352-9999(10:00~18:00)
 新国立劇場Webボックスオフィス
 https://nntt.pia.jp/

【韓国公演】
2025年11月14日(金)~23日(日)
芸術の殿堂(ソウル・アーツ・センター) CJトウォル劇場

【福岡公演】
2025年12月6日(土)〜7日(日)
J:COM北九州芸術劇場 中劇場
▶︎J:COM北九州芸術劇場
 TEL 093-562-2655(10:00~18:00)

【富山公演】
2025年12月12日(金)~13日(土)
オーバード・ホール 中ホール
▶︎チケットについて:076-445-5511(10:00~18:00/定休日:月)
 公演について:076-445-5610(平日 8:30~17:15)

Webサイト 焼肉ドラゴン | 新国立劇場 演劇

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*1:俳優・劇作家・脚本家・演出家。NHK連続テレビ小説『まんてん』(2002年)の脚本を務めるなど、舞台以外でも幅広く活躍。

*2:劇作家、演出家、小説家。1970年~80年初頭にかけて若者の熱狂的な支持を得て、「つかブーム」といわれる現象を巻き起こした。