「日本では最初で最後かもしれない公演」伝説的ミュージカルを新演出で現代に届ける(ミュージカル『コーラスライン』プロデューサー:福島成人さん)

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ブロードウェイの大人気作『コーラスライン』。新演出でアレンジされ、イギリスで大好評を博した舞台が日本にやってきます。2025年9月、池袋の東京建物 Brillia HALLで開幕し、仙台・大阪での公演後、シアターHでの東京凱旋公演でツアーファイナルを迎えます。本作のプロデューサーを務める福島成人さんに、舞台鑑賞初心者の方に向けて、作品の見どころや舞台プロデューサーの役割についてお話いただきました!

『コーラスライン』ストーリー

物語は、ニューヨーク。舞台の新作ミュージカルのオーディション会場。ステージ上には、1本の白い線が書かれている。その線の前に、最終オーディションに残ったメンバーは17名。最後の課題を渡される。『自分自身について語ってほしい』と。そして、課題を渡すのが、新作ミュージカルの演出家・ザックである。最終オーディションの面々は、多様な人生を歩んできており、誰一人として同じ回答をする者はいない。自分の人生のシェアをするとき、人は最高の主役であり、輝く瞬間を見るのであった。そんなメンバーの中に、過去にザックと恋人関係にあったキャシーも、再び舞台に戻るためにオーディションに挑んでいた。
(公式HPより:https://tspnet.co.jp/whats-ons/acl/)

「神の声」だった存在が、生身で対等に舞台上へ

ブロードウェイの伝説的ミュージカル『コーラスライン』を、今回新演出で上演されるとのことですが、今までの演出と違う点を教えていただけますか?

『コーラスライン』は1975年にブロードウェイで初上演されました。ミュージカルでいう「コーラス」とは「その他大勢の人」に近いポジションのことで、そのコーラスたちのオーディションの様子を描いた物語です。当時、演出家は絶対的存在で、オーディションを受けに来るパフォーマーたちは、名前を呼ばれず、番号のみで呼ばれたりするなど、存在をないがしろにされていたような時代でした。この作品を作ったマイケル・ベネットは、自身が目にしていた舞台裏の光景をそのまま描き出したんです。

旧バージョンと比べて異なるのは、登場人物を今の時代に即したようなキャラクターに仕立てているという部分です。例えば、女性が力強いです。男女対等のもとに成り立たせているのでしょう。そして多様性という点にも、より意識をもって臨んでいますね。主役級のポジションばかりでなく、コーラス役であっても誇りを持ってオーディションを受けに来ていますから、演出家とも対等な立場で向き合う、など。そういったところに視点を当てた、今の時代にふさわしい演出をしていると思います。

「一番の見どころ」といえる部分はどこでしょうか?

やはり演出家役・ザックが舞台上に登場するところですね。今までの演出では、ザックは声でしか登場しなかったんです。当時、演出家はパフォーマーからすると神様のような存在。マイクで話す声が聞こえるだけのザックは、まさに「神の声」といった存在でした。

新演出では声だけでなく、舞台上に姿を現してパフォーマーたちに生身で近づいていきます。ザックはパフォーマーたちに自分自身の人生を語らせます。最初は緊張していたメンバーたちも少しずつ打ち解けてゆき、自分を出すことに対して勇気が出てくる。自分の人生で最も楽しかったこと・良かったこと、あるいは辛かったことを語れるようになっていきます。ザックが歩み寄ることで、緊張が解け、パフォーマーたちが最も輝く瞬間、つまりは最も演出家が狙いたかった瞬間、人の輝く姿、生き生きしている表情を引き出すことが出来るんです。

従来のコーラスラインも、オーディションの参加者たちが自分の人生を語り合って、最後に気持ちが1つになる…というところに感動があるんですが、あくまで彼らだけの物語で、ザックは録音された声を流すだけ。とても機械的な存在でした。でも、新版のコーラスラインでは、演出家も人間であり、パフォーマーたちと関わることで、人間的な成長を遂げていく姿を見ることができます。

従来の演出とは印象がまったく変わりそうですね。

そうですね。ザックを演じるアダム・クーパー自身が、演出家も俳優もどちらの立場も経験しているからこそ、新しいザックを上手く見せてくれると思います。従来のザックについては、「もう少し演出家にも心があってもいいんじゃないか」と、アダムは言っていました。

新バージョンは今の時代に生きているからこそ、より作品への理解を深めることが出来、共感する演出になっていると思います。従来版にはもちろん従来版の良さがあります。ストーリーそのものや楽曲など作品の根幹は変わっていないので、従来版の演出で観たことがある人には見比べてみてほしいなと思います。

作品のためにこだわった劇場選び

舞台のプロデューサーというのは、どのようなお仕事をされているのでしょうか?

僕の場合は、まず「上演する作品を決める」ところから始まります。つまり、企画の立ち上げ。今回のコーラスラインを例にとってお話ししてみたいと思います。2017年に『雨に唄えば』というミュージカルを上演した時、ロンドンの稽古場に行ったんです。その時に、演出家のジョナサン・チャーチと出演していたアダム・クーパーと雑談をしていて、コーラスラインのザックはどうして表に出てこないんだろう、という話題で盛り上がりました。

その後、2021年11月に『コーラスライン』の新演出版プロジェクトが立ち上がる、ザックが舞台に登場する、そしてアダムが出演する、という話を聞きました。ぜひ日本でも公演をやりたいと思ったので、ジョナサンと何度となく話し合いを重ね、4年がかりで日本での上演が決まる、となったのです。

ここで「上演する作品が決まった」のですね。そうすると次は…

次は「劇場を決める」という仕事が待っています。これもプロデューサーの大事な役目です。今回、日本で公演が出来ると決まったのがかなり直前でした。日本の劇場事情として、公演まで1年を切ると、もう予定が埋まってしまっている劇場が多くて、希望通りの期間と場所で上演するのが難しいんです。

新版『コーラスライン』は池袋の東京建物 Brillia HALLを皮切りに日本プレミア公演を行います。偶然、今回の期間、借りることが出来たのはとてもラッキーでした。その後、仙台・大阪と地方公演を行い、最後に品川区にあるシアターHで東京凱旋公演を行います。この凱旋公演についても奇跡的な偶然に恵まれまして…。

この新演出版を最初に上演したイギリスの劇場(レスターのカーブ劇場/ ロンドンから電車で1時間くらい)は、500人も入らないくらいの小さい劇場でした。なので日本でもそのくらいの規模の劇場で出来ないかなと思ったんです。そもそも『コーラスライン』という作品は、表舞台の物語ではなく、バックステージ(舞台裏)の話なので、小さめの劇場で出来るものなら、という思いもありました。でも公演まであと1年もないという段階ですから、どこもそう都合よく空いていなくて。

もう諦めようかなと思っていたところ、客席数700席ほどのシアターHにたまたま空きがあったんです。収支を考えて、ビジネスとして成立させるのもプロデューサーの役目ですから、勇気を持っての決断でもありましたが…。ま、ですが、これで、グランドミュージカルとしてのゴージャス感は、東京建物 Brillia HALLや大阪の梅田芸術劇場で味わっていただき、劇場の一体感は、舞台上と客席がより近いシアターHで贅沢に体験いただける、となったのです。

できれば両方観るのがおすすめですね!

そうですね、どちらを観るか。どちらも観るか(笑)

劇場を決めるのと並行して、キャスティングも行いました。今回は、ザックを中心に物語が進行する訳ですから、ザック役のアダムがいないと成立しないプロジェクトです。ですから彼にはどうしても出演してほしいと直接話をしました。本来は海外公演の招聘の際は、キャスティングにまで携わることはあまりないと思うので、珍しい仕事なのかなと思います。あとは、日本のスタッフも決めないといけないですし…もう怒涛の展開でしたね。

「何かあった時に責任を取る」のがプロデューサー

今回の作品で特に苦労した点などがあればお伺いできますか?

ピンチだったのは、イギリス公演中に「日本公演はナシにしてほしい」と言われたことですね…。『コーラスライン』の上演に関する権利を有しているカンパニー(ブロードウェイ)から、新演出を受け入れられないという意見が出てきたんです。イギリスで大好評だったので、新しいコーラスラインが大喝采を浴びていることが悔しかったのでしょう。何度も説得を重ねて最終的には「今回(この日本公演)が最後の公演」ということで、納得してもらうことができました。

だから「最初で最後の日本特別公演」と謳っているんですね!

そうなんです。この新演出版は、もう日本でしか見られません。個人的には日本語バージョンでも上演したいという気持ちはあるんですが、それはまたこれからの交渉次第ですね…。難しそうですが。現状、新演出版『コーラスライン』は、今回の日本公演が最後ですよ、ということになります。

とても貴重な公演ですね…。プロデューサーの仕事についてたくさん語っていただきましたが、プロデューサーという存在を一言で表すとしたらいかがでしょうか?

公演が始まって「何かあった時に責任を取る人」だと思います。プロデューサーって、何事もなく平和に進んでいればいらないくらいの存在です。ただ、有事の時にどうするかの判断はプロデューサーがするしかない。震災や火災、ケガやトラブルなど、対処には思慮深く、かつ瞬時に判断しないといけない、命を削るような仕事です。やりたい作品を創り、舞台をスタートさせるだけじゃダメなんですよね。

大変な中でもプロデューサーを続けられていて、やりがいを感じるのはどんな時でしょうか?

やはり舞台が終わって、お客さんが幸せそうに帰っていく姿を見るのが、とてもハッピーな瞬間ですね。公演中はずっと劇場にいるのですが、お客さんたちが作品について話しているのを見たり、楽しんでくれている雰囲気を感じたりすると、良かったなぁと思います。

「同じものは二度とない」のが舞台の醍醐味

最後に、舞台鑑賞初心者の方に向けて、福島さんが考える舞台の魅力を教えていただけますか?

映像だと同じものを繰り返し見られるんですが、舞台はそうはいかないところが魅力です。舞台は生のものなので、その日のその舞台は、次の日全く同じものを観られるわけではない。“その時だけ”観られるもの、というのが劇場でないと体験できない生舞台の醍醐味だと思います。

もちろん仕掛けとして映像を使ったりはします。でも、基本的にはその日その瞬間だけの芝居を見せていくっていう思いが、役者さんの中にもある。これは舞台のあり方として、ずっと変わらないものだと思います。だから、お客さんも毎日観に来るような方もいらっしゃるんですよね。2回観たらずいぶん違ったとか、初日と千秋楽だと全然違うとか、それも舞台ならではの見どころなんじゃないかなと思います。

プロフィール

福島 成人(ふくしましげと)

『コーラスライン』プロデューサー/トータルステージプロデュース代表取締役 ホリプロ、IMGを経て舞台制作の道へ。1994年ロンドンミュージカル『カルメン・ジョーンズ』招聘を機にプロデューサーデビュー。以降、『身毒丸』『西遊記』『キャンディード』『兵士の物語』『雨に唄えば』『コインロッカーベイビーズ』『良い子はみんなご褒美がもらえる』など、演劇・音楽・ダンスが交差する革新的な舞台を多数手がける。2018年から作曲家・岩代太郎氏との「奏劇」シリーズをプロデュースし、ジャンルを越えた表現に挑戦。2023年『レイディ・マクベス(天海祐希、アダム・クーパー主演)』、2024年『見知らぬ女の手紙(篠原涼子、首藤康之出演)』、2025年『イノック・アーデン(田代万里生、中嶋朋子出演)』では日英合作での新作の戯曲作りと舞台化や名作小説の戯曲・舞台化に取り組むなど、常に挑戦と創造の最前線に立ち続けている。

公演情報

公演名 ミュージカル『コーラスライン』
日程・会場
▶︎お問い合わせ
【日本プレミア公演】
2025年9月8日(月)〜2025年9月22日(月)
東京建物 Brillia HALL
▶︎tsp Inc.
tsp Inc. contact@tspnet.co.jp
※上記お問い合わせの際、メールの件名に必ず「コーラスライン」とご記入下さい。

【東京凱旋公演】
2025年10月10日(金)〜2025年10月19日(日)
シアターH
▶︎tsp Inc.
tsp Inc. contact@tspnet.co.jp
※上記お問い合わせの際、メールの件名に必ず「コーラスライン」とご記入下さい。

【仙台公演】
2025年9月27日(土)~9月28日(日)
仙台サンプラザホール
▶︎仙台放送 事業部
 022-268-2174(平日11:00~16:00)

【大阪公演】
2025年10月2日(木)~10月6日(月)
梅田芸術劇場メインホール
▶︎キョードーインフォメーション
 0570-200-888(平日12:00~17:00)
Webサイト コーラスライン 公式サイト

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