「世代を超えて戦争を伝えていきたい」真実の愛の実話から平和について考える(舞台『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』プロデューサー:川嶋龍太郎さん)

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終戦から80年を迎えた2025年8月、よみうり大手町ホールにて、ドキュメンタリー映画*1を原作とした舞台『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』が上演されます。桂子・ハーンさんの甥であり、今作のプロデューサーを務める川嶋龍太郎さんに、舞台鑑賞の初心者に向けて、舞台化の経緯や本作に込める思い、おすすめの観方を伺いました。

桂子さんの100時間の語りを元に描かれた舞台

舞台『WAR BRIDE』はどのようなお話でしょうか?

14歳で横浜大空襲に遭い、終戦後にアメリカの軍人と結婚して渡米した僕の伯母、桂子・ハーンの半生を描いた物語です。 差別や偏見を乗り越えながら、激動の時代を逞しく生き、日本とアメリカをつなぐ架け橋になっていく様子を辿っていきます。

舞台『WAR BRIDE』は川嶋さんの手がけたドキュメンタリー映画が元になっているとお聞きしました。ドキュメンタリー映画を撮ることになった背景や、その後、舞台化が決まった経緯を教えてください。

コロナ禍の時に、伯母の桂子が広島の戦争シンポジウムにオンラインで出席をすると聞き、90歳を過ぎた桂子がどのように戦争について語るのか気になって観てみました。そこで、彼女が1945年の横浜大空襲を経験していることを知りました。学徒動員で、海軍の通信器具を作っていた時に空襲に遭い、地下に逃げたそうです。「(空襲から)何時間も経って、表に出たら、見えるはずのない海が見えるくらい焦土化した街が広がっていた。自分の母校である紅蘭(現在の横浜雙葉学園)を見に行ったら校舎もなくて、家に帰れるわけもなかった」という話を淡々としていました。75年以上前の話について、涙を流しながら「私は今でも戦争を憎んでいます」と言っていたのが印象的でした。

しかしそういいながらも、なぜ彼女は戦後直後敵国のアメリカ兵・フランクと結婚したのか、という疑問をもちました。そこで、カメラを持ってアメリカの伯母の元へ行き、1日10時間を10日、合計100時間、話を聞いて、ドキュメンタリー映画を撮りました。話を聞いているうちに、1930年から戦争を経て今まで続く、とても史実とは思えない大きな物語だなと思えてきて。その時はドキュメンタリーとして作ったのですが、映画やドラマ、舞台にすることができるんじゃないかと思い、それぞれ企画書を出しました。

同じ会社で舞台プロデューサーをしている木村に、ドキュメンタリーを見てもらうと、「これは戦争を乗り越えた愛の物語だ」と涙を流しながら言ってくれ、舞台化をすすめることになりました。早速、脚本と演出は2022年度の読売演劇大賞を取られたばかりの、劇団チョコレートケーキの脚本家の古川さんと演出家の日澤さんのお二人にお願いしました。お二人にドキュメンタリーを見てもらって「ぜひ一緒にやりましょう」というお返事をいただき、舞台化をすることが決定しました。

ドキュメンタリー要素が詰まった祖父の戦争体験

私の人生、実はもう1個原動力があって。

私の父方の祖父は、東京の商船大学を出て機関士として日本郵船に勤め、主に欧州の定期航路に携わっていました。日本郵船はアジア、ヨーロッパ、アメリカなどへの定期航路、戦時下では軍事輸送も担っていました。そこで戦地に人を運ぶ仕事を任命されていたそうです。乗っていた船が 何度か沈没したこともあったそうなのですが、その時に生き残ったたった1人だったそう。それだけじゃなくて、1945年の8月6日、広島にいた祖父は、その日の朝仕事に行かずなぜか家でゆっくりしていたそうです。 すると、ドーンと音がして、家の壁が倒れてきて、表に出るとキノコ雲があがっていたと言います。 爆心地から1.5キロで、何故か祖父は爆心地に向かっていったそうです。 その事を思うと、私の人生に比べ物にならない経験を祖父も伯母もされたんだと思いました。 祖父が戦争で生き残っていなかったら、私は今ここにいないと思うと不思議ですよね。

自分の祖父のことはもう撮れないけれど、桂子だったら撮ることができる。だから今、テレビ局で働いているんだなと思っています。

役者に寄り添い、桂子の代わりとなるプロデューサー

『半沢直樹』や『下町ロケット』などのドラマのプロデューサーである川嶋さんですが、今回の舞台ではどのような役割を担っていらっしゃるのでしょうか?

この舞台では、プロデューサーという役割で特に桂子の言葉を伝える脚本づくりには深く関わっています。また、桂子の代わりとして何か出来ることがないかと、出来るだけ稽古場に顔を出すようにしていました。稽古場にいると、色んな役者さんから「この登場人物ってどんな人だったんですか」という質問をいただくので、僕のわかる範囲で説明しています。

来年のドキュメンタリー作品の一部として今年の1月に桂子役の奈緒さんとアメリカに行った時の映像があるのですが、奈緒さんから「出演するメンバー全員に見せてもらえないか」と提案してくれて。ただ私は、「今回の演劇はオリジナルだから、私が作った映像に引っ張られず、自由に表現したほうががいいんじゃないか」と伝えたんです。しかし奈緒さんは、「事実を知った上でどう演じるか。桂子さん自身の言葉やフランクさんを頼りにしている」とおっしゃいました。これは、確かにその通りだなと。映像を全員に送りました。

すると早速、奈緒さんから、「『戦争花嫁って言葉、私嫌いなの』ってセリフ、桂子さんはそういうふうに言うかな?」という話が上がって。それをきっかけに、台本が広がっていきました。稽古で練り上げられていく様子を見て、このタイミングで映像を共有して良かったなぁと思いましたね。

世代を超えて平和のバトンを繋いでいきたい

終戦80年を迎える今年の8月にこの舞台を上演する意味についてどうお考えですか?

2022年の冬頃に「戦後80年」の節目となる2025年8月に舞台をできないかと木村プロデューサーと共に考えました。 その理由はたった一つで、世代を繋いでいきたいからです。今、桂子が94歳で、僕が52歳、奈緒さんが30歳。そうすると、私は桂子の息子くらいで、奈緒さんは僕の娘くらいの世代。奈緒さんには戦争花嫁の孫だと思って、当事者としてこの物語を演じてほしいなと思っています。

先日、桂子の母校である横浜雙葉学園で、 今作の元となったドキュメンタリー映画の上映会をやりました。総勢で1200人。そのうち800人くらいの7歳から18歳の子たちが瑞々しい気持ちで観てくれました。上映後、戦争花嫁についてどう思うかや、戦争を起こさないようにするには、どうすれば良いのか、生徒たちにインタビューを撮りました。

この子たちが戦争について考えさせるきっかけを作るために、我々はこういうことをやっていると思うと、すごく意味があると思いました。我々は放送局として、奈緒さんは自分自身で表現をして、平和の尊さを伝えるんです。今回の公演は、桂子や私の母校の学生さんが団体で観にきてくれます。生徒たちが、自分ごととして戦争について考え、自分の家族に戦争の時の話について質問してほしいなと思っています。

最後に舞台を観る方へメッセージをお願いします。

観劇してくださったどの世代の方にも、なぜ戦争が各国で起きているのか、戦争がを起こさないためには、一人ひとりどうすればいいのだろうかということを、自分ごととして考えるひとつのきっかけにしてほしいなと思っています。

また本作ではひとりの女性がひとりの男性を愛して、死が二人を別つまで過ごし、それでも彼のことを思いながら生きていく夫婦の愛、家族の愛も描いています。ドキュメンタリーも舞台も、真実の愛の物語だと思っています。

とはいえ、舞台はエンターテイメントでコミカルなシーンもあるので、そこも含めて、笑って泣いて感動して、明日から頑張ろうっていう思いを持っていただければいいなと思います。

プロフィール

川嶋龍太郎(かわしま りゅうたろう)

1973年生まれ、神奈川県横浜市出身、長野県長野市育ち。 2009年、TBS入社。ドラマ制作部に所属し数々のドラマ演出・プロデュースを担当。 主な作品はドラマ「半沢直樹」「陸王」「下町ロケット」「JIN―仁―」映画「祈りの幕が下りる時」「七つの会議」など。桂子の甥。

公演情報

公演名 舞台『WAR BRIDE
-アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』
日程 2025年8月5日(火)~8月27日(水)
会場 よみうり大手町ホール
Webサイト 舞台「WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-」公式サイト
お問い合わせ お問い合わせフォーム|TBSチケット

ドキュメンタリー映画 『War Bride 91歳の戦争花嫁』

日程:上映中~2025年8月15日(金)
会場:池袋シネマ・ロサ
Webサイト:https://www.cinemarosa.net/nowshowing/war-bride/

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*1:8月15日まで池袋のシネマロサで原作となったドキュメンタリー映画「War Bride 91歳の戦争花嫁」(TBSテレビ)が公開中